俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十一話

俺はスタジャンの内ポケットに手を滑らせた。
しっかりと用心棒を握る。
汗ですべらぬようしっかりと握り込む。
そして素早く取り出し、受付の男に向けて言い放った。
『バイブは持ち込みだと無料でゲスか?』
受付はおののいたが…
余談だがおののいたは、おのののかに似ている。
受付は冷静に俺に告げた。
『お客様、バイブのオプションは当店の物も持込も有料で二千円でございます。』
俺は落胆の色を悟られまいと、平静を装いながら言った。
あくまで、ナチュラルに。
『まあ、初めての店でバイブは止めておくでゲス。そもそも女の子の技量を見るにはこちらが受け手に回らなくてはいけないでゲスもんね。性感マッサージはお客がされるほうで、しっかりと楽しむにはオプションは不要でゲス。うん。そうだ。オプションは今回は無しにしようでゲス』
俺は受付の男を見た。
―やりきったか?―
表情が読めない。
なかなかのポーカーフェイスだ。
さすが、第一の関門を任されているだけはある。
受付は眉一つ動かさなかったかと思うと、急に笑顔になり言った。
『では、女の子お任せで結構ですね。オプションも無しと言う事でご料金は三万二千円を頂戴致します。よろしいですか?』
俺はつくづく受付の男に関心をした。
―俺がプロフェッショナルなら、こいつもプロフェショナルだ―
俺はようやく商品名、《スーパー用心棒君2000ハード‐ウッドグリップバージョン‐》という名のバイブを懐にしまった。
そしてようやく財布から相手の提示した取引金額を出し、カウンターの上に置いて言った。
『出来ればでいいでゲスが、金額だけ書かれた領収書を欲しいでゲス。』
領収書。
淡い期待だが、依頼主が対応をしてくれるかもしれない。
この紙切れ一枚で天国にも地獄にもこの世は変わる。
受付の男はやはり笑顔で俺に答えた。
『大変申し訳ありません。ただ今領収書を切らせておりまして、必要ならば女の子が伺う際にお届け致しますが?』
地獄の釜は開きかけていたが、直前で思い留まってくれた様だ。
俺はゆっくりとうなずいて言った。
『では、女の子から領収証を貰うでゲス。この後はホテルで待っていればいいでゲスね?』
受付の男はその言葉を聞くと、カウンターの下から何やら地図を取り出してきた。
ちょうど地図の真ん中あたりの一帯が色が変わっている。
おっと、言い忘れたがもちろん地図はラミネートされてある。
受付の男は色の違うその場所を手で示して言った。
『こちらの辺りですが、場所はお分かりになりますか?』
この男は俺をおのぼりさんか何かと勘違いをしているのだろうか?
―ふっ。池袋のマップは大体頭に入っている。ただし、裏通りに限るがな―
もちろん、示された場所もわかっていた俺は頷いた。
受付の男はさらに続けた。
『では、こちらにあるホテルマハラジャかホテル秘宝館にお入り下さい。込みのプランでご利用頂けるホテルになります。並んで建っていますので、どちらに入って頂いても結構です。入室されましたらお電話でホテル名と部屋番号をお伝え下さい。』
こんな場所は一刻も早くおさらばだ。
俺は話を聞き終わると、受付を背にして出て行こうとした。
ドアノブに手をかけた時だった。
『お客様っ』
俺はゆっくりと振り返った。
『女の子が伺うまでにこちらにご記入をお願いします。』
受付の男は一枚の紙切れを渡してきた。
俺はその紙を受け取ると、ポケットに突っ込んだ。
名刺二枚くらいのサイズだろうか?
いや三枚くらいか?
違うな、確かB3サイズとかだったか?
いやそれよりは小さい気がする。
ならばA5か?
違うな?
やはり名刺二枚分か?
―くっそ、とにかく紙だ。面倒くさい大きさの紙だ!―
俺はようやくドアから外に出る事にした。

続く。