俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十五話

外の気温とは裏腹に、エアコンのせいか室内は暖かかった
少し汗ばんできていた。
シャワーを浴びたい気分だった。
だがそんな時間は俺には残されていなかった。
俺は煙草に火をつけ煙をくゆらせた。
やけに煙草が旨くない。
俺は数回煙草を吸うと早々に煙草を灰皿に押し付けた。
入り口から音がした。
“コンコン”
どうやら誰か来たようだ。
俺は入り口へと向かった。
深呼吸をしてドアを開けた。
『はじめまして。りょうです。よろしくね』
にこやかに俺に笑みを向ける女。
紛う事なきあの女だ。
りょうだ。
りょうは大きめのキャメルカラーのバックを持っていた。
黒のミドル丈のトレンチコート。
襟元から覗かせた黒のハイネックニット。
赤のチェックのスカートがコートの裾から少しだけ見えている。
小さい目の網タイツに飾り気のない黒のロングブーツ。
―やはり受付の男は紛れも無いプロフェッショナルだ―
俺は心の中であらためて納得するとりょうに挨拶を返した。
『どうも、始めまして。今日はお願いします。』
柄にも無く舞い上がっているのか?
俺の中の丘嶋はすっかり影を潜めていた。
りょうを室内へと促した。
ソファー近くにりょうは荷物を置いてから俺に言った。
『ちょっと緊張してる?』
俺は自分の口元を確認した。
―この俺が笑っている?まさか…な―
俺はりょうに強く言い放った。
『別に!緊張とかしてないですよー。しないっすよ。』
りょうは微笑んだようだった。
『フフッ。ならいいんだけど。あっこれ。』
俺は領収書と書かれた茶封筒をりょうから渡された。
中身は確認する事無く、立ったままテーブルに置いた。
プロフェッショナルを疑うような事を俺はしない。
問題は無い筈だ。
経験がそう告げている。
りょうはコートを脱ぐとクロゼットに向かいコートをハンガーに通してしまった。
ソファー脇に立つ俺を余所目にりょうはソファーに腰を掛けた。
『丘嶋くんだっけ、立ってないで隣に座れば?』
俺は言われるがまま無言でりょうの隣に腰を下ろす。
待っていたかのようにりょうが言った。
『アンケートは書いてくれた?』
俺はポケットから先ほど書き終えたばかりのアンケートをりょうに渡した。
りょうはアンケートを熱心に見つめた。
『うんうん、なるほどね。今日は自分の性癖を確かめに来たんだ?』
俺は答えた。
『そうです。自分は自分の性癖がいまいち分からなくて―』
自分でも驚くほど饒舌に俺は作ってきた設定を話した。
設定はこうだった。
自分の性癖を確かめたい男。
色んな店を渡り歩いている男。
今日は初めて性感マッサージに挑戦するから色々試して欲しい。
りょうは俺の話を聞きながら何やら準備に取り掛かっていた。
そして俺の話が終わると同時に準備も終えていたようだった。
りょうが独り言のようにポツリと言った。
『そっか。じゃぁ道具持ってくれば良かったな…』
うつむいて悲しげな表情をしていたのが今でも印象的だ。
俺はりょうに確認をした。
『道具って…もしかして、バイブ?バイブの事?』
またりょうは俺に微笑みかけて言った。
『ふふっ。それも一応あるけど縄とか手錠とか色々持ってるの。この店の前はSM店で働いてたからね。そっちの業界の方が7~8年くらいだから長いの。まだこの店は3年目だからね。』
これにはさすがの俺も驚いた。
今夜はプロフェッショナルの集いだ。
とんだパーティーナイトになりそうな予感がいっそう強くなった。
期待に胸は膨らんだが、あるひとつの疑問が頭をよぎる。
―WEBページには確かに26歳と書かれていた。少なく見積もっても17歳から働いている事になる―
りょうは続けた。
『あっ、でもちゃんと普通の店も2~3年経験あるよ。あーあ、分かってたら道具持ってきたのにな』
そう言って子供っぽく笑ったりょうの瞳には狂気がやどっているようにも感じた。
これは罠なのか?
罠だったのか?
―そうか、わかったぞ!!掛け持ちだ。掛け持ちに違いない―
りょうはベッドの上に移動をすると俺を手招きした。
俺はソファーから立ち上がりベッドへと移動した。
ベッドに座るや否や、りょうが音も立てずに俺に襲いかかってきた。
りょうの手が俺の首元にするりと伸びる。
油断。
大敵。
万事、休す。