【男の風俗】~風俗体験記(まとめ)~

どうも【男の読み物】です。
過去に人気の高かった俺の風俗体験記~痴女編~をまとめて一気読み出来るようにしました。
加筆修正と幻の1話が追加されたバージョンになっています。

《俺の風俗体験記》
~痴女編~
ディレクターズカットver.

第1話~俺とオフィス~

数年前の3月初旬。
太陽は低く、凍える寒さの残るそんな日だった。

そう、俺の運命が変わった日は・・・

その日、変わらない日常を感じながら俺は一人目覚めた。
孤独は常に寂しさを感じさせるが時に様々な煩わしさから開放をしてくれる、俺が10年以上連れあっているパートナーだ。
ふと、時計に目をやる
―少し眠りすぎたようだ―
急いで身支度をして家を出た。
駐車場へと向かう。冴えた車が俺を待っていた。
優しく愛撫するようにそっとドアを開ける。そして身体を滑らせてシートに座り込む。イグニッションキーを回す。
心地よいエンジン音と微かな振動。胎内の鼓動にも似ている。
ゆっくりとアクセルを踏み込み相棒は走り出す。
俺は会社へと向かった。

車の中で煙草とも寒さに濁る息ともつかない白い煙を漂わせながら、俺は今日の仕事のスケジュールを整理する。
―今日は確か、面接が一件―
そんな事を考えているうちに、出勤前に必ず寄るコンビエンスストアに辿り着く。
空腹では頭も働かない。
水、ノンシュガーのミルクコーヒー、サンドウィッチ、そして煙草。
レジではいつもの顔が待っている。
俺に恋人は居ない。レジの女にふと目をやる。
―少し若すぎる。女は30才前後が一番熟れている―
経験がそう告げている。
コンビニエンスストアを出ると再び車を走らせた。

家から会社までは僅か十数分の距離だ。
最後の角を曲がるとお目当ての駐車場が見えてきた。
スムーズに駐車場に車を流し込む。
停車位置の目測を決めたところでシフトレバーを一旦パーキングに入れる。そして次はバックに。
あくまで優しく慎重に。一発で決めない事には車がへそを曲げちまう。
今日もしっかりと駐車は決まった。車はご機嫌にボンネットから熱を放っている。
俺は車から降りると会社へと歩いて向かった。
近くの公園では高校生とおぼしき男女がイチャついている。少し過去を思い巡らそうか?いや、止めておこう。
甘酸っぱい経験など持ち合わせていない。レモンスカッシュよりブラックコーヒーが俺には甘いくらいだ。
公園を過ぎると会社についた。

オフィスに入ると自分のデスクに座り、まずは一服。
愛用のジッポライターで煙草に火を着ける。微かなオイルの匂いが鼻をつく。嫌いじゃない香りだ。
煙草を半分ほど吸った所で今度はパーソナルコンピューター、つまりはパソコンを立ち上げる。
そいつは無機質な機械音を鳴らしたかと思うと、モニターに俺の“夢の女”を映し出した。
だが見とれている暇はない。俺には仕事がある。
『おい、白川』
俺を呼びつける声がした。
こんな風に俺を呼びつける男は会社に一人しか居ない。オフィスの支配者、社長である星敏彰が声の主だった。
俺は返事をすると社長のデスクへと向かった。
社長の前に立つ否やで告げられた。
『お前、今度の休みに性感とか痴女の店に行って勉強してこい。』
俺はまだ眠りの中に居たのか?耳を疑う言葉が俺に放たれた。
社長とはそれなりに長い付き合いがある。
俺は何かの間違いだと結論付けて聞き返す。
『もう一度よろしいですか?』
今度は聞き逃すまい。社長の口元にじっと目をやる。
『だからMの経験をして来い』
社長から言われたのは同じ意味の言葉。
どうやら耳鼻科に用は無く、俺に必要なのはMの気質。
つまりはマゾヒストが利用する性感マッサージ店に行けと言っているようだ。
社長は俺がS、つまりはサディスト寄りである事を忘れちまったらしい。
でも社長の言う事は絶対だ。
これは形式的な話しなんかじゃない。俺にそう思わせる理由を社長は持っている。今、俺が生きているのはこの社長のおかげだ。
過去を探るのには時間が足りない。
この話はまた別の機会にしよう。

俺は腹を決めた。
恩を返せるのなら何だってやってやる。人に借りを作るのは好きじゃない。
なんせ生まれた時からお袋に人生と言う大きな借りを作っちまっている。幸せで返すのにはまだまだ時間がかかる。
俺は社長に言った。
『わかりました。店はどちらに行けば?』
社長は目の前のキーボードを叩き、マウスを小慣れた動きでクリックする。
モニターの画面が幾度か変わり、いくつかのWEBサイトが表示された。
『この中のどれかだな?』
社長は示されたモニターを見る事を促すように俺を一瞥した。
俺はそのままモニターを覗きこむ。モニターには卑猥な店名がずらりと並んでいる。
すかさず社長がマウスをクリックする。
『ここなんかどうだ。いいんじゃないか?』
モニターに示された店は【痴女りたい】と言う名の痴女プレイを売りにする専門店だった。
妙齢の女性が口元に自分のひとさし指をやり、妖艶な様相でこちらを見ている。
『わかりました。そちらに行きます。』
俺は二つ返事で店を決めて依頼を受けた。
そのまま俺は社長と少し打ち合わせをしてから自分のデスクへと戻った。

デスクに戻った俺はまた一服を始める。
既にヤニで汚れた天井に追い討ちをかけるかのように天へ煙を吐いて静かに目を瞑った。
『社長からは何の話だったんでゲスか』
静寂を破る甲高い部下の丘嶋の声。どうやら俺には一瞬たりとも休息は許されないらしい。
『まあ、ちょっと…な』
含みを持たす言い方をしながらも話をはぐらかした。全てを話す必要性は感じない。こちらから与える情報は少なく、頂く

情報はごっそりと。
これも経験がそう告げている。
丘嶋は少しむくれた顔をして言った。
『ちぇっ、つまんねぇでゲス』
ただ、元々むくれた顔をしているのか?本当にむくれているかは傍目には分からない。
これも経験がそう告げている。
目の前のキーボードを叩きながら俺は言った。
『そろそろ電話の鳴る時間だ。準備を』
モニターがキーボードの指示通りにシステムを起動させると同時に丘嶋の返事が横からする。
『へーい。わっかりやしたでゲス』
丘嶋の下卑たニヤけ面が脳裏にこびりつく。こいつとも数年来の付き合いだが、それに慣れる気配は俺にはない。
利害関係が無くなればいつでもと思いつつも利用価値がまだ残っているような気がした。
経験がそう告げている。

“トゥルルルルルルルル”

けたたましく電話が鳴った。
俺はすばやくデスクの左前へと手を伸ばした。
『はい。』
―さあ仕事の時間だ今日も俺の一日が始まる―

第2話~俺と丘嶋~

ブラインド越しに見える景色はいつもと変わらない。
繁華街の獣達もだいぶネオンと言う名の瞳を閉じ始めている。
時計に眼をやると針は深夜の3時過ぎを刺していた。
オフィスは静寂に包まれている。
俺はこの世で最後の一服のようにゆっくりと煙草の煙を吐き出す。そして咥えて、次はゆっくりと肺に煙を取り込む。ゆっくりと優しく、染み込ませながら命を削る。

“煙草を吸い過ぎる人は確実に癌になる可能性が高い”

お偉いドクターが昔TVから俺に告げていた。
そう言われてもこいつは止められない。
それこそ止めちまえばもっと早死にしちまうだろう。そんな事を考えながらアルミ製の灰皿に煙草を押し付けた。
『ただ今戻りましたでゲス!』
静けさを破る相変わらずの甲高い丘嶋の声がオフィスに響いた。
どうやら女の子の送迎から戻ったようだ。
俺はオフィスの入り口を軽く目をやるだけにして、すぐにモニターへと向き直った。画面には社長に依頼を受けた【痴女りたい】のWEBサイトが映し出されていた。淫靡な女が数時間前と変わらず俺を見ている。
俺は《スケジュール》と書かれたメニューリンクをマウスを動かしてクリックした。
モニターには新たに一週間の日付が現れた。
お目当ての日付のリンクをクリックする。幾人かの女が眼前に現れる。どいつも卑猥なポージングで俺を誘っている。モザイクの掛かった顔はどれも魅力的に映っていた。
誘われるように《あきら》と記された女の名前をクリックする。
スパイムービーのように《あきら》のデータを知る事が出来た。
ちょろいもんだ。
26歳、身長は164センチ。
バストがDカップ、ウエストは58センチ…
―違う、この女じゃない―
左に向いた矢印をクリックしてまた《スケジュール》へと戻る。
今度は《しょう》と記された女の名前をクリックする。
24歳、身長は154。
バストはB。ウエストが57…
―こいつじゃないっ!―
また戻る。そしてまた別の女をクリック。単調な作業の繰り返し。
数人を続け様に目に焼き付ける。眼に疲労が蓄積する。
俺をよそ目に丘島は戻ってからこちら、オフィス裏のバックヤードを忙しく動き回っていたようだ。

そういえば…
“あなたは集中(あつ)くなると周りが見えないのね。”
昔、ある女に言われたセリフだ。
“俺が熱くなるのはお前だけだ。”
その言葉を女は待っていたのだろうか?いや、俺がそんな気の利いたやつじゃない事ぐらいわかっていただろうか?
今となってはどうでもいい事だ。
過去を思い巡らせても、出てくるメニューはブラックコーヒーだけだ。

『ドウゾでげす。』
その声とともに、いつの間にか俺の横に立っていた丘嶋が缶コーヒーを俺に差し出す。
こいつが何かを俺にギフトをする時は決まってリターンを求めている。
今、丘嶋に渡せる俺からのギフトはない。一度はそう考えたが差し出された缶コーヒーを見た。そこには微糖と書かれていた。こいつなりに今の俺を理解(わか)っている。
俺は缶コーヒーを受け取るとステイオンタブを押し込んだ。
“プシュッ”
小気味良い音が耳に届けられる。同時に鼻腔に広がるエメラルドマウンテンの香り。そのまま空っぽの胃へと少し甘いコー

ヒーを流し込む。
『サンクス。生き返ったよ。』
半分近くまで減った缶コーヒーを丘嶋の方へ掲げて俺は言った。
丘嶋は変わらず様子を伺うように俺を見下ろしている。
―あんたなら、禁断の飲み物を胃に入れた結果はわかっているんだろう―
そんな台詞でも言いたげな顔をしていた。
『で、何が知りたい?』
丘嶋の方を向きもせずに俺は言った。
今にも涎をたらし出しそうな顔をしているのはわざわざ見なくても容易に想像がついた。
経験がそう告げている。
『何の話だったんでゲスか?社長は』
丘嶋が言った。
俺はすかさずジャケットのポケットをまさぐる。そこに答えがあるはずだ。
奥に入り込んだコインを指先で掴む。
『答えはこれだ』
俺はそのコインをそのまま取り出して親指ではじいた。
慌てて丘嶋が受け取ろうと両手を差し出すが、コインは空しく床に落ちた。
丘嶋がコインを床から拾いあげて言った。
『チェッ!でゲス』
俺は自分の顔が少しだけ緩むのを感じた。
丘嶋は苦笑いを浮かべると頭を掻きながら雑用へとバックヤードに戻って行った。
それを見届けもせずに俺は残った仕事を片付ける事にした。

第3話~俺とやもやん~

午前5時30分過ぎ。ようやく俺は仕事から解放された。
外はまだ薄暗かった。
吐く息は濃い白で、この気温が続くのなら煙草の本数は減らせそうだ。
太陽もこう寒くてはなかなか面を拝ませてはくれないらしいが、そもそも俺は奴をあまり好きじゃない。
孤独を照らせるのは月だけだ。
オフィスを出た俺は皆と別れて相棒の下へと向かった。
駐車場に着くと、お利口な相棒は変わらずそこに居た。
―早く私を暖めて―
そう言っているように俺には感じられた。
求められるのもたまには悪くない。ただし、こいつとはあくまでギブ&テイクの関係だ。
俺は車に乗り込むと、相棒の望み通りエンジンを温めてそのまま自宅へと車を走らせた。

十数分の距離ではエアコンは降りる直前にきいてくる。
少し温まった体も駐車場から自宅への道ですぐに冷える。
襟を立てるだけじゃ寒さはしのげない。
ドア前に着いた俺はポケットから自宅の鍵を取り出し鍵穴へと差し込む。

物音?
違和感?
用心深く俺は懐に手をやる。心臓近くにも手が触れる。
鼓動が徐々に速度を増すのが手に伝わる。

息を整える。
そしてゆっくりと鍵を右に回す。
“カチャ”
もう一度息を整える。
深呼吸をすると、少し待ってからドアノブを回す。
音を立てないように玄関のドアをゆっくり開く。

そとの街路灯の光が室内に漏れるより早く叫んだ。
『誰だっ!』
沈黙は動かない。
アンサーは無かった。

“カサ”
やはり物音。
だが、その音があまりに微かだった為正体を見破った。玄関に一番近い部屋に居る居候だ。
一ヶ月程前から突然我が家に転がり込んできた。合鍵も持たないそいつがどこから入ってきたのかは分からない。
だが、そいつがどこにだっていつでも出入り出来る事は知っていた。
経験がそう告げている。
その侵入者は足を怪我していた。俺は気まぐれでそいつを飼う事にした。
初めて見た時は壁の保護色なのか?薄い灰色をしていた。今はウッドチップの敷材と同じ、茶色の体色だ。
名無しの権兵衛じゃあまりにしまりが悪い。
俺はそいつに《やもやん》と名づけた。
《やもやん》は生餌を良く食べ、今ではすっかりと元気になっていた。
俺の用心深さと《やもやん》の元気さはどうやら同居が出来ないらしい。
―お前ともそろそろお別れだな―
俺は《やもやん》を不釣合いな程に大きいケージからを取り出した。
別れを惜しんでいるのか?俺の掌から動く気配はない。
俺はそのまま外に出ると目に付いた草むらに《やもやん》をそっと下ろした。
暫くその場に留まる《やもやん》
しかし、直ぐに独特な歩行でジャングルへと姿を消した。
家にヤモリが出ると幸せになれるらしい。昔読んだ何かの本に書いてあった。
《やもやん》にしがみつくほど俺は幸福を求めちゃあいない。求めるのは幸せじゃない。
いつまでも借りの返せないお袋への罪悪感が消える事だけを望んでいる。
ふと上を見上げると空が白み始めていた。

家に入ると真っ先にシャワーを浴びた。
熱いシャワーが疲れた身体に心地よかった。
三十代後半にしては均整の取れた身体。だと思っている。
孤独は己を磨く最高のスパイスになる。だが、出来上がったディナーを誰かと食べる事は無い。
多少は鍛えてなきゃ今回の仕事は乗り切れない。
経験がそう告げていた。
短く刈った髪から首筋、肩へと湯を浴びせる。後背筋の辺りは念入りにシャワーをあて続けた。疲れが全て取れる事は無い。
経験がそう告げていた。
眼を瞑り、今日一日を振り返る。
―やれやれ。今回のヤマは骨が折れそうだ―
カランを捻りシャワー止めた。ビッグサイズのバスタオルで身体を包み込む。
春を感じるほどの柔らかな感触。
お気に入りのショップ、IKEA。
確か二枚千円程度で購入したものだ。激安だ。
バスルームを出たら直ぐにでもベッドに潜り込みたかった。
しかし、お生憎様とこの部屋にはベッドが無かった。
とてもじゃないが、築15年以上の畳の部屋にはベッドは不釣合いだ。
もちろんそれだけじゃ無い。俺にはまだやらなければならない事がある。
無造作に手に取ったボクサーブリーフを履く。
ウエストの部分にはCalvin Kleinとアルファベットで書かれている。購入したのはもう一つのお気に入りのショップ。
コストコ。二枚組、千五百円程度だ。少し高い買い物だった。
しかし、大事なものは必ず守る。俺もこいつも同じポリシーを持っているから多少の出費は仕方がない。
ソファーに腰を落とす。
サイドテーブルにはデスクトップパソコン。これは余談だが、サイドテーブルもやはりIKEAで買ったものだ。
千円だ。決して安くは無い買い物だが一流の男は一流を好む。
これもまた仕方があるまい。
俺はおもむろにパソコンを立ち上げた。
機械音とともにモニターに映る女の姿。
手で恥ずかしそうに胸を隠している。
童顔からは不釣合いな大きなバスト。
なだらかなウエストからヒップへのボディーライン。
コツコツと下積みを重ねて十年近く第一線で活躍している。
彼女は歌が上手いらしい。
今となっては手の届かない存在。
“夢の女”が頭をチラつく。
そもそも会った事も無い女の子事を考えるのは俺の主義じゃない。
デスクトップの背景画像はまた今度暇を見つけて変える事にした。
頭を振り払い、キーボードを叩いた。
【痴女りたい】
―3日の後、決着(ケリ)をつけるしかない―
暫くWEBサイトを眺める。情報は多いに越した事は無い。
情報が無ければ依頼は達成出来ない。
鍵を握るのは人じゃない。
物じゃない。
時間でもない。
鍵はいつでも情報が握っている。
経験がそう告げていた。
必要な情報は携帯と手帳に留めた。
俺はそこまですると、カビ臭い布団へと潜り込んだ。
そしてしばしの眠りについた。

第4話~俺と用心棒~

その日の目覚めは良かった。
とっくに太陽はかくれんぼをしていたが、月が俺を見つけてくれたようだ。
枕元のデジタル時計に目を向けると19時を示している。どうやらずいぶんと寝てしまったようだ。
考えていた予定が崩れた事はさほど気にはならなかった。
気掛かりは一つ。
―圧倒的に情報が不足している―
予定が気にならないとは言え、時間が戻る訳じゃない。
何が起こるか分からない。ただ、確実に起こる事も分かっている。
そして、起こさなければならないモノも。
経験がそう告げていた。
俺はすぐさま布団から出てバスルームへ向かった。
自分で定めた時刻は迫っていたが、念入りに身体を洗う。戦いの前とはいつもそういうものだ。
首。
肩、腕。
胸、腹。
背中。
そして太もも、尻。
考えられる可能性を全て肯定し続けた。
そして一つを残し全てを洗った。
最後に念入りに、残された一つ。
陰部を洗う。
しっかりと皮を剥いてから洗った。
バスルームを出ると、バスタオルで身体を拭く。今日は心地良さにくるまれている暇は無い。
事務的に頭から順に身体の水滴と汗を拭き取る。
ボクサーブリーフはやはりKalvin Kleinに限る。セール品だ。
黒のVネックのロングTシャツは高級ブランドUNIQLOのヒートテック。
クローゼット。とは言っても押入れに突っ張り棒を渡しただけだが、そこからチェックの赤いシャツを取りハンガーから外

して着る。靴下は黒をチョイスした。
三枚千円の安物じゃない。五枚千円の激安物だ。
戦いに臨む服は以前から決めていた。
相手に舐められるとそこでGAME OVERだ。
それも二つの意味で。
黒いニットのジップアップも羽織り、さらにスタジアムジャンパーを重ねて着る。
財布と携帯、そして手帳をポケットにしまう。
スタジャンの内ポケット辺りを確認する。
準備しておいた相棒はしっかりとしまわれている。
昨日の夜に油を差して磨いておいた。詰まりが起きればいざと言う時に取り出しても使えない。
滑りは良くしておかなければ。高い金を払ってその筋から手に入れた。
日本にマグナムは合わない。俺の手より少し余る程度のサイズがちょうどいい。
特別にしつらえさせた木製のグリップが俺の手には良く馴染む。
そこらの路地裏で外国人が捌いている安物とは違う。
こんな物騒なモノ、持ち歩く事に慣れている訳がない。
警察に職務質問を受けたらおしまいだ
俺の仕事を話せば理解を示す?そんな淡い期待はもちろん出来ない。
この国の警察がそこまで甘く無い事は痛いほどわかっているつもりだ。
さあ、準備は整った。
俺は急ぎ足で玄関へと向かった。
そこで気がついた。
俺とした事が、スタジャンの懐に気を取られ過ぎてズボンを履き忘れていた。
慌てて踵を返し、準備していたデニムパンツに両足を放り込んだ。
今度こそ。
―待ってろよ!【痴女りたい】―

第5話~俺と受付~

駐車場へと急ぐと愛車に乗り込んだ。
シートに素早く腰を落とす。イグニッションキーを回す。ハンドルを持つ。
―ちょっと手荒になるが、愛してないわけじゃないんだぜ―
心の中で相棒に呟いてからアクセルを踏み込んだ。
高速を使えば一時間少々。
東京都池袋。
北口。
目指す【痴女りたい】はそこにある。
岩槻インターチェンジから、東北道に乗る。
そして首都高へ。
まだ車のご機嫌は良いようだ。
しかしある事に気づく。数日前の愛車のランチを豪勢にしておくべきだった。
牛丼レベルのガソリンじゃ相棒もすぐ腹が減る。ケチってツケが回ってきた。
ガソリンが残り少ない。財布には必要額と二千円程度の金しか入ってない。
コンビエンスストアに寄って下ろしている暇は無い。
それに帰りにはもう下ろす事も出来ないだろう。
そもそも銀行に貯金などない。
よってキャッシュカードも持っていない。
だが、二千円分のガソリンがあればなんとか自宅までは戻れるだろう。
依頼が先決だ。
信用を失ってしまっては二度と依頼は来ないだろう。おまんまの食い上げになっちまう。
俺は深く考えず車を飛ばした。
もちろん法定速度でだ。
グリーンの出口標識が目に飛び込む。そこには池袋と記されてある。
俺は左にウインカーを出した。
池袋の街に吸い込まれるように、弧を描きながら速度を落とした。
高速を降りた後は程近くの駐車場へと車を停めた。目的地よりは少し離れていたが、歩ける距離だ。
胸の高鳴りを抑えるのにはちょうど良かった。今さらだが、もう一度持ち物を確認する。
財布、携帯。手帳。
そして何より、懐の用心棒。
使わないに越した事はない。だが必要であれば躊躇しない。
ここまで来ると不思議な程に心は落ち着いていた。
準備は全てオーケイだ。
俺は【痴女りたい】へと向かった。
しかしいきなり行くのは紳士的じゃない。
一度先方へと電話を入れておく事にした。
番号を押すと呼び出し音が耳元から流れた。
『お電話ありがとうございます。悶々性感ヘルス【痴女りたい】です。』
やけに元気の良い受付の声。
暗い野郎を想像していたが、勝手な思い違いだったようだ。
一瞬にして変わる気配。
動揺。
だが、ここまで来てひるんでなどいられない。
怯えや迷いが生むのはいつも最悪の結果だけだ。
経験がそう告げていた。
わかっていながらも俺は無意識で声色を変えていた。
『あのお…初めて利用するんでゲスが、今空いてるんでゲスか?』
すぐさま答えは返ってきた。
『はい大丈夫ですよ。今ならお待たせせずにご案内可能です。』
安堵。
予定は狂っていたがどうやらここから取り戻せそうだ。
続けて受付の男が言ってきた。
『お名前を伺ってもよろしいですか?ご来店頂いた際にスムーズにご案内可能ですよ』
俺はとっさに答えた。
『私の名前は丘嶋でゲス。』
その後俺は、一通りの簡単なシステムなどをそのまま電話で聞いた。
ご丁寧に受付の男は店の詳細な場所を教えてくれた。
俺は電話を切った。
―思った通り、まだ丘嶋には利用価値がある―
ほくそ笑んで歩を進めた。
池袋西口の繁華街。
懐かしく、やはりブラックコーヒーのように苦い思い出の詰まった街だ。
この街に色々教わった事は今も忘れちゃいない。
今日はこの街に借りを返すつもりだ。
俺はネオンを見上げる。
東京の獣は、今の俺が住む街の獣とは訳が違う。
いつだって大きな口をあけてカモを待っている。
いくつものネオン。
無数の獣が巣食っている。
眠らない獣の餌食に今日も誰かがなっているのだろう。
だが、俺は違う。
今夜は俺が獣を喰らう番だ。
ーキッチリと借りは、倍返しだ!!ー
俺はお最近お気に入りのドラマの台詞を心の中で呟いた。
西一番街そう書かれた通りの一つ隣の通りを歩いた。
さしずめ迷路のように入り組んだ路地。進んで行くと目的の場所はあった。
もちろん表に看板の類は出ていない。周りの景色から受付の言葉と符合する。
どうやらこの場所のようだ。
―ここだ。間違いないっ―
もう一つの最近お気に入りのお笑い芸人の台詞を心の中で呟いた。
受付の男が確か電話で言っていた。地下に降りた先のドアから店に入れと。
薄暗い階段を降りると聞いた通り、ドアがあった。
秘密を守るようにスチール製のドアは硬く閉じられている。俺はゆっくりとドアノブを回した。
鍵は掛かっていない。招かれざる客では無いようだ。
ドアを開ける。
『いらっしゃいませー!』
狭い店内に響き渡る声。声の感じから先程の電話の男に間違いない。
経験がそう告げている。
坊主頭にずんぐりとした体格。
白いシャツに薄いブルーのネクタイ。カウンター越しなのでズボンの色は分からない。恐らく黒か紺だろう。
経験がそう告げていた。
三、四畳のスペースの半分近くを占めるカウンター。簡素な丸椅子が三脚置かれている。
俺は男へと歩み寄った。
ここまできたら完全に腹は決まっている。
俺は受付の男に告げる。
『さっき電話した…』
言いかけると、オーバーリアクションで受付の男は数回頷いた。
『先ほどお電話頂いた丘嶋様ですね?お待ちしておりました。』
まずは相手が一本。先手を取られたが次はそうはいかない。
今度はこちらのターンだ。
もちろん倍返しだ。
俺は言う。
『すぐ遊べるんでゲスね?良い娘はいるんでゲスか?』
矢継ぎ早に続けた。
『それなりに経験のある女の子が良いでゲスね。そういう娘は居るんでゲスか?』
受付に少し話す暇を与えた。
『大丈夫ですよ。今ならあきらちゃん…』
―違う、そいつじゃないっ!―
『それと、しょうちゃん…』
―そいつでもないっ!―
『後は…』
―さぁ何もかもゲロっちまえ―
俺は心の中で吼えた。
『…りょうちゃんですね。』
―ビンゴ!そいつだ―
『三名が只今お待ち時間無しでご案内出来ます。どの女の子が宜しいですか?』
受付が俺の顔色を伺う。
―計画通り―
―ここは計画通りに―
俺は落ち着けるように自分に言い聞かせた。
『100分コースをりょうちゃん指名でゲス』
受付に出来る限り悟られないように、俺は今一度財布の中身を確認した。
―100分コースの料金、駐車場代、帰りのガソリン代、そして指名料金―
俺の行動を遮る様に受付が言った。
『では、100分コースとご指名料金、それと入会金を合わせて…』
思わず心の声がポツリと漏れる。
『―えっ、入会金?―』

―入会金だと?―

―入会金だと?―

―入会金だと?―

―なん…―
―だと?―
受付はあざ笑うかのように言った。
『はい。ご指名料、入会金全て合わせて三万四千円になります』
とんだ不運(バッドラック)と踊っちまった。
WEBページには書いていなかった。
と、思う。
思い起こしてみる。
―女性の画像に気を取られ、注意事項等をしっかりと読んでいなかったかも知れない―
誤算。
良くある事なのかも知れない。
経験がそう告げている。
ここで受付と揉めるつもりはない。
有利に駒を進めなくては。修羅場はいくつも踏んできたつもりだ。
計画を変更するしかない。俺は受付に言った。
『そうだ!やっぱり初めての店だし指名は無しで、お兄さんのお勧めでお任せするでゲス』
危険な橋を渡る事になるかも知れない。
経験がそう告げていた。
依頼を受けた時から覚悟は出来ていた
そこまでしないと社長に借りは返せない。
それほどに大きな借りだ。
そう、初めての風俗を人様に奢ってもらうと言う事とは。
思えば10年程前だった・・・
おっと、思い出に浸れるほど余裕ある状況じゃない。
俺は今の状況を整理した。
―池袋はまだまだ俺に厳しい―
ただ、予想外の事はこれだけとは限らない。
俺は財布を出すよりも先に懐の用心棒を確めた。
―出来れば使いたくは…―
だが計画がここまで大きくずれた今、躊躇などしていられない。
いよいよ用心棒に活躍してもらう時が来たようだ。
やはり、経験が告げている。
そして俺の頭の中のサイレンはもうずっと鳴り続けている。
俺はスタジャンの内ポケットに手を滑らせた。
しっかりと用心棒を握る。
汗ですべらぬようしっかりと握り込む。
そして素早く取り出し、受付の男に向けて言い放った。
『バイブは持ち込みだと無料でゲスか?』
受付はおののいたが…
余談だがおののいたは、おのののかに似ている。
受付は冷静に俺に告げた。
『お客様、バイブのオプションは当店の物も持込も有料で二千円でございます。』
俺は落胆の色を悟られまいと、平静を装いながら言った。
あくまで、ナチュラルに。
『まあ、初めての店でバイブは止めておくでゲス。そもそも女の子の技量を見るにはこちらが受け手に回らなくてはいけないでゲスもんね。性感マッサージはお客が攻められる方で、しっかりと楽しむにはオプションは不要でゲス。うん。そうだ

。オプションは今回は無しにしようでゲス』
俺は受付の男を見た。
―やりきったか?―
表情が読めない。
なかなかのポーカーフェイスだ。
さすが、第一の関門を任されているだけはある。
受付は眉一つ動かさなかったかと思うと、急に笑顔になり言った。
『では、女の子お任せで結構ですね。オプションも無しと言う事でご料金は三万二千円を頂戴致します。よろしいですか?』
つくづく俺は受付の男に関心をした。
―俺がプロなら、こいつもプロフェショナルだ―
俺は商品名《スーパー用心棒君2000ハード‐ウッドグリップコンパクトブラックバージョン‐》という名のバイブを懐にしまった。
そして、財布から相手の提示した取引金額を出しカウンターの上に置いた。
『出来ればでいいでゲスが、金額だけ書かれた領収書を欲しいでゲス。』
領収書。
淡い期待だが、依頼主が対応をしてくれるかもしれない。
この紙切れ一枚で天国にも地獄にもこの世は変わる。
受付の男はやはり笑顔で俺に答えた。
『大変申し訳ありません。ただ今領収書を切らせておりまして、必要ならば女の子が伺う際にお届け致しますが?』
地獄の釜は開きかけていたが、直前で思い留まってくれた様だ。
俺はゆっくりとうなずいて言った。
『では、女の子から領収証を貰うでゲス。この後はホテルで待っていればいいでゲスね?』
受付の男はその言葉を聞くと、カウンターの下から何やら地図を取り出してきた。
ちょうど地図の真ん中あたりの一帯が色が変わっている。
おっと、言い忘れたがもちろん地図はラミネートされてある。
受付の男は色の違うその場所を手で示して言った。
『こちらの辺りですが、場所はお分かりになりますか?』
この男は俺をおのぼりさんか何かと勘違いをしているのだろうか?
―ふっ。池袋のマップは大体頭に入っている。ただし、裏通りに限るがな―
もちろん、示された場所もわかっていた俺は頷いた。
受付の男はさらに続けた。
『では、こちらにあるホテルマハラジャかホテル秘宝館にお入り下さい。込みのプランでご利用頂けるホテルになります。

並んで建っていますので、どちらに入って頂いても結構です。入室されましたらお電話でホテル名と部屋番号をお伝え下さ

い。』
俺は話を聞き終わると、受付を背にして出て行こうとした。
こんな場所は一刻も早くおさらばだとドアノブに手をかけた時だった。
『お客様っ』
―しくじった、背後を取られた―
俺はゆっくりと振り返った。
『女の子が伺うまでにこちらにご記入をお願いします。』
受付の男は一枚の紙切れを渡してきた。
俺はその紙を受け取ると、ポケットに突っ込んだ。
名刺二枚くらいのサイズだろうか?
いや三枚くらいか?
違うな、確かB3サイズとかだったか?
いやそれよりは小さい気がする。
ならばA5か?
違うな?
やはり名刺二枚分か?
―くっそ、とにかく紙だ。面倒くさい大きさの紙だ!―
俺はようやくドアから外に出る事にした。

第6話~俺と207号室~

薄暗い階段を登っていくと、都会の喧騒が俺の耳に飛び込んできた。
俺は地図で示されていたホテルの場所へと急ぎ足で向かった。
煌くネオン。
どれも魅力的な誘い文句が書かれている。
ケモノ達が口をあけて旅人を待っている。
酔っ払いの大学生やサラリーマン。皆、ケモノの餌になるとは露とも分からず美酒に酔いしれているのか。
既に千鳥足の者も居た。
夜という世界に関しては俺も同じ餌だったのかも知れない。
だが、今夜で変わる。
俺は被食者から捕食者へと。
示されていた場所に近づくにつれて、いつの間にか喧騒はスピーカを絞ったように遠のいていた。
ネオンもまばらになり暗がりの通りへ。
示された場所へ曲がる。
そこだけが一際怪しく光るネオン。
ホテルマハラジャが先に見えていた。
アラビア風の宮殿を模した外観。白と恐らくゴールドを基調にしている。
隣にはホテル秘宝館があった。こちらは薄いピンク色をしており、いかにもと言った卑猥さを放っている。
俺はマハラジャに入る事にした。
ホテル前まで着くと、自動ドアをくぐりホテル内へ。
なんの事はない、外観と違い内装は普通のラブホテルとさほど変わりは無かった。
タッチパネル式のホテルでは無く、受付が居るタイプのラブホテルのようだ。
受付カウンターへと進む。
カウンターには目隠しがあり受付の口元しか見えない作りになっている。
だが俺には分かる。年の頃なら五十手前だろうか?
経験がそう告げていた。
―このくらいの女ならまだストライクゾーンだ―
俺は受付の女に部屋利用の旨を伝えた。
女は無言で部屋番号のプラスティックの札がついた鍵をぶっきら棒に渡してきた。
207号室。
プラスティックの札にはそう記されていた。
俺は左を向き、エレベーターと書かれた案内板を見つけてそちらの方に歩いていった。
エレベーターホールに辿り着く。
上向きの三角形のボタンを押す。
すぐさまドアが開く。
俺は颯爽と乗り込むと二階のボタンを押した。モータ音と共にエレベーターが動き出すのを感じた。
いよいよ決戦の舞台へ。
今宵ケモノを喰らい、選ばれた者へと俺は変貌を遂げる。
余談だがエレベーターと選ばれたは似ている。
エレベーターのドアは数秒で開き、新しい世界を俺に覗かせた。
右か、左か?どちらだ?
答えはすぐに出た、207号室は右側と案内板が指し示していた。
俺はエレベーターを出ると207号室へと急いだ。
ドアの上方には部屋番号の書かれたランプが点滅している。
この点滅が何を意味するのか。危険のサインか、当選の歓迎か?この時の俺は知る由も無かった。
俺は受け取った鍵を差し込むとそのまま右へと回す。
“カチャ”
鍵が開いた。
俺はドアをゆっくりと開ける。
『誰かいるのか?』
一応声を掛けてみた。
アンサーは無かった。
どうやら俺の用心深さは当分消えそうにない。
だが、ケモノはいつどこに潜んでいるかは誰にも分からない。このくらいの用心深さがちょうどいい。
俺は室内を軽く見回した。
入って右手にドア。おそらくシャワールームとトイレだろう。他にドアは見当たらない。
テレビとその下に引き出しが三つ、それに冷蔵庫。
テレビの横にはクロゼット。その反対側には二人掛けのソファーとテーブル。全ての作りが至って簡素だが、ベッドだけは違った。
異質を放つベッド。天蓋が取り付けられマハラジャの世界観を思い起こさせる。
ベッドの枕元にはランプ。横には猫足型のサイドテーブルがあった。
俺はとりあえずスタジャンとジップアップを脱いでクロゼットにしまった。
そしてベッドに腰を下ろす。
―そう言えば、男が渡してきた紙…―
俺はポケットから先程の紙を取り出した。細かい文字で《プレイアンケート》と書かれている。
どうやらプレイの希望を書くアンケートのようだ。
一番下には《ご記入後、女の子にお渡し下さい》と書かれてある。
俺はサイドテーブルに置かれたペンを取りアンケートに記入を始めた。

“プレイタイプは?”
ヘルスプレイ、性感プレイ。
俺は性感プレイに丸をつけた。

“どのように攻められたいですか?”
優しく、普通に、激しく。
俺は普通と激しいの間に丸をつけて、下に一文添えた。
(それなりに激しく)と。

“アナルは平気ですか?”
平気、駄目、試したい。
俺は迷わず平気に丸をつけた。
俺は一旦ペンをサイドテーブルに置くとその場で目を瞑った。
過去の記憶が生々しく蘇る。
俺はそのままトリップを楽しむことにした。

第7話~俺と過去~

十九歳、夏。
扇風機の音と息遣いだけが聞こえる。
そこは以前働いていた職場の寮だった。
汗ばむ二人が居る。
俺ともう一人は女だ。
女は俺に卑猥な格好をさせて、俺のアナルへと指を突っ込んでいた。
『ねぇ、簡単に入ったよ。』
今でも鮮明に覚えている。
俺にはそうなるべく素質が備わって居たようだ。
『ねぇ、この乾電池入れてみてもいい?』
『わぁ、乾電池も入るよ』
『ねぇ、どんな感じ?気持ちいい?』
俯瞰で見る俺は恍惚の表情を浮かべている。
『もういいって、もういいって、何か出そう。うんこかも知れない』
俺は無駄な抵抗を試みている。
彼女には通じない。
『すごい勃起してるよ。気持ち良いんでしょう?』
俺は抵抗を続ける。
本当は続けてほしかったのか?俺には分からない。
『本当にうんこが漏れそう。もう止めて』
『大丈夫、何も出ないよ。』
彼女は本当に楽しそうな声をしていた。
フラッシュバック。
彼女の声。
『もう止めよう。』
『私やっと好きな人が出来たの。』
『お願い、終わりにして欲しい。』
『聞いてるの?』
『ゲームのどきどきメモリーに夢中で本当に周りが見えないね』
『恋愛ゲーム一筋ね』
『何がコンプリートよ!』
『何がりょうちゃんを落とせば最後よ!』
『いつまでたっても落とせないじゃない!』
『そういう所が嫌いだった…』
『好きなところも大して無かったけど…』
『そもそも付き合ってないし。』
『じゃあね。バイバイ。』

俺は一筋の汗と共に目を開けた。
現実が飛び込んでくる。
薄暗いホテルの一室。
今すぐブラックコーヒーを飲みたい気分だ。
ただブラックコーヒーなど本当は必要ない。
それよりも苦いリアルが俺の置かれた現状だからだ。
それに…。
そもそもミルクか砂糖のどちらかがないと俺はコーヒーが飲めない。
経験がそう告げていた。
俺はもう一度ペンを取り、アンケートの続きを書き終えるとポケットに突っ込んだ。
携帯を手に取ると【痴女りたい】に電話をした。
先程の受付の男が電話に出る。
俺はホテル名と部屋番号を告げた。
『ホテルマハラジャに入ったでゲス。207号室によろしくでゲス。りょうちゃんがくれば嬉しいでゲス。』
それだけ言うと俺は電話を切った。

第8話~俺と女~

外の気温とは裏腹に、エアコンのせいか室内は暖かかった
体が少し汗ばんできていてシャワーを浴びたい気分だった。
だがそんな時間は残されていない。
俺は煙草に火をつけ煙をくゆらせた。
やけに煙草が旨くない。
俺は数回煙草を吸うと早々に煙草を灰皿に押し付けた。
入り口から音がした。
“コンコン”
どうやら誰か来たようだ。
俺は入り口へと向かった。
深呼吸をしてドアを開けた。
『はじめまして。りょうです。よろしくね』
にこやかに俺に笑みを向ける女。
紛う事なきあの女だ。

りょうだ。

りょうは大きめのキャメルカラーのバックを持っていた。
黒のミドル丈のトレンチコート。
襟元から覗かせた黒のハイネックニット。
赤のチェックのスカートがコートの裾から少しだけ見えている。
小さい目の網タイツに飾り気のない黒のロングブーツ。

―やはり受付の男は紛れも無いプロフェッショナルだ―
俺は心の中であらためて納得するとりょうに挨拶を返した。
『どうも、始めまして。今日はお願いします。』
柄にも無く舞い上がっているのか?
俺の中の丘嶋はすっかり影を潜めていた。
りょうを室内へと促した。
ソファー近くにりょうは荷物を置いてから俺に言った。
『ちょっと緊張してる?』
俺は自分の口元を確認した。
―この俺が笑っている?まさか…な―
俺はりょうに強く言い放った。
『別に!緊張とかしてないですよー。しないっすよ。』
りょうは微笑んだようだった。
『フフッ。ならいいんだけど。あっこれ。』
俺は領収書と書かれた茶封筒をりょうから渡された。
中身は確認する事無く、立ったままテーブルに置いた。
プロフェッショナルを疑うような事を俺はしない。
問題は無い筈だ。
経験がそう告げている。
りょうはコートを脱ぐとクロゼットに向かいコートをハンガーに掛けた。
ソファー脇に立つ俺を余所目にりょうはソファーに腰を掛けた。
『丘嶋くんだっけ、立ってないで隣に座れば?』
俺は言われるがまま無言でりょうの隣に腰を下ろす。
待っていたかのようにりょうが言った。
『アンケートは書いてくれた?』
俺はポケットから先ほど書き終えたばかりのアンケートをりょうに渡した。
りょうはアンケートを熱心に見つめた。
『うんうん、なるほどね。今日は自分の性癖を確かめに来たんだ?』
俺は答えた。
『そうです。自分は自分の性癖がいまいち分からなくて―』
自分でも驚くほど饒舌に俺は作ってきた設定を話した。
設定はこうだった。
自分の性癖を確かめたい男。
色んな店を渡り歩いている男。
今日は初めて性感マッサージに挑戦するから色々試して欲しい。
りょうは俺の話を聞きながら何やら準備に取り掛かっていた。
そして俺の話が終わると同時に準備も終えていたようだった。
りょうが独り言のようにポツリと言った。
『そっか。じゃぁ道具持ってくれば良かったな…』
うつむいて悲しげな表情をしていたのが今でも印象的だ。
俺はりょうに確認をした。
『道具って…もしかして、バイブ?バイブの事?』
またりょうは俺に微笑みかけて言った。
『ふふっ。それも一応あるけど縄とか手錠とか色々持ってるの。この店の前はSM店で働いてたからね。そっちの業界の方が7~8年くらいだから長いの。まだこの店は3年目だからね。』
これにはさすがの俺も面食らった。
今夜はプロフェッショナルの集いだ。
とんだパーティーナイトになりそうな予感がいっそう強くなった。
期待に胸は膨らんだが、あるひとつの疑問が頭をよぎる。
―WEBページには確かに26歳と書かれていた。少なく見積もっても17歳から働いている事になる―
りょうは続けた。
『あっ、でもちゃんと普通の店も3~4年経験あるよ。あーあ、分かってたら道具持ってきたのにな』
そう言って子供っぽく笑ったりょうの瞳には狂気がやどっているようにも感じた。
これは罠なのか?
罠だったのか?
―少なく見積もってSM店に7年、この店に3年、そして別の店で2年、働ける年齢が18歳から、すべてを符合すると答えは30。そう30歳―
―そうか、わかったぞ!!掛け持ちだ。掛け持ちに違いない―
りょうはそんな俺の考えを遮る様にベッドの上に移動をして俺を手招きした。
俺はソファーから立ち上がりベッドへと移動した。
ベッドに座るや否や、りょうが音も立てずに俺に襲いかかってきた。
りょうの手が俺の首元にするりと伸びる。

油断。

大敵。

万事、休す。

りょうの手は首元から、俺の胸へ蛇のように絡みついてきた。
優しくシャツの上から俺のミスタービーンに弧を描くように触れる。
そのままそっと顔を近づけて言った。
『今日はどんな風にされたいの?』
りょうの生温かい、だが心地よい吐息が俺の耳を撫でる。
俺は突然の出来事に戸惑いながらも答えた。
『えっ、えっ、いやっ。色々、なんかして貰えたらって思ってます。』
りょうの顔は見えなくても魔性の微笑が脳裏に映る。
経験がそう告げた。
『可愛いわね。じゃあ色々しようね。』
そう言いながらりょうは俺のシャツのボタンに手を掛ける。
一つ一つ上から順番にボタンという名のカップルを、事も無げに別れさせていく。
りょうの馴れた手つきにはどんな結婚相談所だって太刀打ち出来ない。
ボタン達はプレイ終了まで離れ離れだ。
そしてあれよと言う間に俺のシャツが完全にはだける。
りょうが優しく俺に問いかける。
『気持ち良い?』
俺はもちろんしっかりとその言葉に答えてやる。
『は、はひぃいい』
このままでは完全にりょうと言う名の巨大な陰謀に飲み込まれちまいそうだ。
だが、俺にはまだヒートテックと言う牙城が残されている。
ここからが真の意味でりょうのお手並みを拝見といこう。
りょうの手は休む事無く、それでいてゆっくりと俺の体の感触を、温度を楽しんでいる。
そしてズボンのボタンにも手を掛ける。
ジーンズのボタン。
それはシャツのようにおいそれとはいかないはずだ。
経験が俺にそう告げてくれる。
リベットボタンと呼ばれる真鍮製の鎧を着たナイトが俺の正門を警護しているはずだ。
しかしおかしい。
ズボンにはベルトが付き物のはず?

■説明しよう!!
白川は急いで家を出た為、いつもならば絶対にしているベルトをしていなかったのだ!!

―そうか、そう言う事だったのか!―
話は戻る。
りょうは俺が脳内で一人会話を楽しんでいる間に、すでにナイトを打ち負かしていた様だった。
そしてもう一度耳元で囁く。
『ふふっ。少し大きくなってるね』
甘い、甘すぎる。
ちょろい、ちょろ過ぎる。
これだから女は。
女ってやつは。
りょうはここに来てから今まで、俺をリードして来たつもりだろうがそうはイカの金玉だった。
りょうはひとつ大きなミスを犯した。
いや読み間違いとも言うべきか。
この時おれの自身の生用心棒はすでに怒り、そして猛り狂っていた。
そう、完全にフル勃起だった。
そしてそうはイカの金玉だけに、イカ臭い生用心棒の汗も噴出し始めていた。
そう、カウパーだ。
経験だけがそう告げていた。
りょうの攻めはさらに激しさを増す。
俺は両手をあげるように促される。
―こいつ!シャツやズボンのボタンだけじゃ飽き足らずにヒートテックまでその手に掛けて殺めるつもりか!―
だが俺はあえて相手の策略に従う。
素直に両手を上げた。
スルスルとシャツは、りょうの手によって俺の腹、胸、腕を伝ってまくし上げられていく。
しかし顔を覆うほどにたくし上げられた時に事件は起こった。
突然の停止。
りょうは急にヒートテックを脱がすのを止めた。
『見えないのって興奮するでしょ?』
そう言って、なんと自分の舌で汗ばんだ俺の背中を愛撫し始めたのだ。
―チッ!ここで視界に加え、両手の自由まで奪われるとは。俺もとうとうヤキが回ったか?―
なおもりょうの猛攻は続く。
『くすぐったい?』
そう言いながらもりょうは腰あたりから首筋まで丹念に俺の背中を舐め上げていく。
『いや、あっ、あっ、気持ちいいです。』
りょうの攻めが止むことは決してない。
彼女の攻めが雨ならば、世界中の飢饉問題、干ばつは全て解決されるだろう。
『乳首も気持ちいい?』
ここまでくれば…えーいままよ。
経験が告げる。
俺は流れに身を任せる。
『ハイ。』
良い返事だ。
ピッカピカの一年生にも決して負けてはいないつもりだ。
りょうは左手で俺のヒートテックを使い自由を奪いつつ、回り込むように俺の乳首を舐める。
チロチロ。チロチロ。
まるでそんな音が聞こえそうなほどに。
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ。と、漫画や文章ならこう描くべき高速の舌遣いを織り交ぜる。
何分かその攻めは続いたのだろうか?
あっと言う間でもあり、永遠にも感じる時間。
見えている俺の上半身は全てりょうの唾液で大海に変わっていた気がした。
りょうはようやく脱がせかけたヒートテックを俺の体から切り離した。
―しばしのお別れだ、ヒートテック。なーに、またどこかで会えるさ―
俺が別れの余韻に浸っている間にりょうはいつの間にか黒のハイネックニットを脱いでいた。
格闘技ならバックを取られたら終わりだ。
それはこのウインナースポーツとて同じ事が言える。
りょうは俺をその場に立たせる。
すでに正門は開いている。
今の彼女なら城内に侵入することは容易いだろう。
ただ、最後の近衛兵がいる。
そうチャックだ。
チャックと言っても外国人の名前ではない。ジッパーの事だ。
しかしそのチャックをりょうが下ろした。
おれのズボンはいとも簡単に、彼女が手を下すまでもなく。
立ち上がった瞬間に無残にも床へとずり落ちた。
いよいよ俺は下着一丁。
そう、大事なものは必ず守る。
仲間の死で涙に濡れたCalvin Kleinだけが俺を守ってくれていた。
ベッドから立ち上がった俺に、Calvin Kleinに待ち構えていたさらに過酷な運命。

第9話~俺とプロフェッショナル~

それほどの罪を、俺はCalvin Kleinは追うのか?
自問。

否、そんなはずはない。
自答。

都合の良い自分への言い訳だった。
りょうの手は相変わらず休まる事は決してなかった。
取り付かれたように、優しく時に激しく。
舌を使い、手を使い、そして恐らくは腰をくねらせ全身を使い。
そして俺に背後から語りかける。
『自分でパンツを脱いで。ゆっくり下ろしてね。』
俺に何もかもを捨て去れとこの女は言う。
夜。
孤独。
それだけで俺は何もかもを失ったと思っていた。
経験が告げて教えてくれた。
しかしりょうは違った。
彼女だけは違ったのかも知れない。
俺自身も知りえない、隠された感情を見つけ出しては彼女は捨て去れと言う。
すでに俺は、依頼を受けてしまった事に後悔を感じ始めていた。
つくづく自分の性格が嫌になる。
人に借りを作らず、常に優位に。回収する側へ。
だが実際はどうだろうか?俺には分からない。
考えるのを諦める。
俺は自分の下着に手を掛けた。
その瞬間。
ふと俺が振り返った、その時。
りょうはおもむろに自分の背へと手を回すと、上半身唯一の守り。
俺に立ち塞がる連なる火山を、溶岩を自らの手で取り去った。
そこには二峰の雪山が姿を現す。
露になる乳房。
たゆん、たゆん。
十八禁の卑猥な漫画であればこう表現される擬音。
ルージュのように赤い乳頭。
立っている。
彼女も、りょうも俺と同じだった。
程好い大きさで、赤ん坊に独占はさせられないほどにしゃぶりつきたくなる。
そして形の良い、大きな。
大きな胸。
これが胸。
これぞ胸。
これこそが女の胸。
“夢の女”を思い起こされる。
―ここでも俺は遅れを取るのか?―
俺は手にかけたCalvin Kleinを素早くずり下ろした。
足を使い、完全な俺へと。
りょうはそっと俺の前へ回り、IKEAのバスタオルより癒しをあたえるかのように俺を抱きしめる。
かと思うと離れる。
俺のミスタービーンと自分のミスビーンをお見合いさせる。
掴まれた二の腕から、りょうの手の温度が伝わる。
さようならの様にりょうは後ろを向く。
そしてホックを外してスカートを床に落とす。
AでもないZでもない。
無論HではあるがHではない。
俺は確かに見た。
尻を、尻を、尻を!
見間違える筈がない。
彼女はアルファベット部隊二十番目の刺客。
そう…。
Tバックを着用していた。
その極小布面積しかないブラジャーとお揃いの赤のTバックを履いていた。
尻ホッペが完全に露出されていた。
無防備な尻ホッペを俺の、俺の、事もあろうか俺の生用心棒に押し付ける。
冷やりと、冷たい感触が股間に伝わる。
しっとりと濡れているかのように錯覚する。
いや、濡れているのは生用心棒の汗のせいだった。
今更だが、経験がそう告げていた。
彼女は俺を弄んだ。
いや、俺と呼ぶべきか?
理性とは裏腹に蠢く俺自身のケモノ。
生用心棒。
略してNY。
NYを尻で、時にはしゃがみこんで胸で。
そして手で。手は休まる事無く必ずどこかに触れる。
ミスタービーンを。
背中を太ももを腕を。
ミスタービーンズを。
多くの場合はミスタービーンズを。
そして多くの場合は尻で、尻でNYを弄ぶ。
だが、永遠を感じる事は出来ない。
りょうは飽きたように、突然動きを止める。
吐息の漏れる声で俺に言った。
『こっち…』
りょうは俺の手を掴むとバスルームへと向かった。
バスルームには入らず、脱衣所辺りで立ち止まるりょう。
そして俺の後ろへと回り込む。
弄ぶ。
そしてまた弄ぶ。
知らなかった。
知らなかったんだ。
洗面所にあんな大きな鏡があるなんて。
いや、知っていたよ。
確かに知っていた。
だが、忘れてた。
忘れていたよ。
経験が教えてくれない時もある。
鏡は彼女の味方だ。
俺に屈辱を与える為だけだ。
『どう、見えてるよ。恥ずかしいね?』
大きな鏡に映る小さな俺のNY。
まざまざと見せ付けられる。
惨い。
惨すぎるその光景に俺は思わず目を背ける。
何故かは分からない、願いが通じたのか?
すかさずりょうは俺との位置を変えた。
優しさ?彼女にもまだ残っていた人間の心。
今更そんな事はどうでも良かった。
いつの間にか置かれていた洗面台の薬品。
見覚えがある。
これは…ローション。
気づけば蛇口からお湯まで出ていたようだ。
湯気が立ち上っている。
恐らくはりょうの仕業だろう。
俺の目を盗んでこの程度の動作、彼女には目を瞑っても出来る造作もない事。
だが実際、目を瞑っていたのはほとんど俺だった。
りょうは俺を洗面台に押し付ける。
この時の俺に抵抗する力は殆ど残っていなかった。
陶器で出来た無機質な洗面台の白い冷たさが俺を冷静にさせる。
俺はりょうと洗面台の間に囚われる。囚人でもこの刑罰は御免こうむるだろう。
“プシュッ”
聞き覚えのある音が耳に入る。
―マヨネーズだ!そうだマヨネーズを出す時に空気が入っていてそれが出た時の音だ!―
経験が告げる。
どうやらりょうは、ローションと言う名のポイズンをとうとう俺に使うらしい。
俺は心の中で決意した。
すでに生用心棒はぬるぬるだ。
今さらどうと言う事はない。
受けて立つ。
りょうは手に取ったローションを何やらタッパーウェアのような容器の中でお湯と混ぜ始めた。
ローションの滑らかさが彼女の指で疾走する。生き物のようにネバネバと、持ち上げた手から落ちる。
『はうぅううううううう』
何が起こったのか、一瞬分からなかった。
事もあろうに、りょうは俺のNYへローションを垂らしたのだ。
そして高速で動かされる指先。
胴体から頭へ、そしてまた胴体へ。
頭、胴体、頭、頭、頭、胴体。
りょうが問う。
『どぉう?気持ちいい?』
胴体、頭、頭、頭、頭頂部、そして頭。
『気持ちいいですっ!気持ちいいですぅううううう!』
攻めはすでに生用心棒だけでなく、全身に広がりを見せ始めている。このままここで俺は殺られるのか?
果てるのか?
彼女の攻めが最高潮かと思われた時、またも指は舌は動きを止める。
りょうがあの無邪気な笑顔を見せる。
『じゃあ、シャワー浴びよっか?』
―えぇぇえーーーー!!―
―ちょっと待って下さいよ!ちょっと待って下さいよ!―
―これで終わりですか?こんだけで終わりですか?―
俺の幻想はすぐに打ち砕かれることになる。
りょうはTバックを脱ぐとシャワールームに入った。
そして彼女は武器をローションからボディーソープへと持ち替えた。
俺への拷問は心配を他所に変わらず続いていた。
驚いた事に、いつの間にか浴槽には湯が張られていた。
ボディーソープで俺の体を念入りに弄びながら洗う彼女。
シャワーで体を洗い流すのも早々に、黒く濁った液体を俺に差し出す。
一息入れろという意味なのだろうか?
プラスティックのコップに入った液体はまさしくコーヒーのそれと同じく黒い色。
俺は毒を食らわば皿までとばかりにそのコップを受け取る。
そっと口元に近づける。
この匂い。
遠いあの日を思い出す。
大学生のあの頃、いや大学にはそもそも行っていない。
高校生のあの頃、そもそも高校も中退だ。
もっと前、年端も行かないガキの頃だ。
―そうか!これはイソジンだ!―
俺はイソジンを口に含みうがいをした。
プロフェッショナルにはプロフェッショナルの流儀が、ルールがある。
それだけはおかしちゃいけない領域だ。
いやテリトリーだ。言い方的にはそちらの方が格好良い。
彼女に空になったコップを渡すと彼女もうがいをした。
―やはり彼女がプロフェッショナルであると言う事実は動かない―
彼女は簡単に自分の体を綺麗にすると浴槽へと浸かった。
なみなみと入ったお湯が浴槽からお湯があふれ出す。

そう言えば…
昔、アルキメデスは王に黄金で作られた王冠が真に黄金だけで作られたかどうかを確かめろと命じたらしい。アルキメデスは考えた。もちろん冠を溶かしたりすれば簡単に分かることだが、素晴らしい細工の施された王冠を壊す訳にはいかない。アルキメデスは考え疲れ果てた。そして疲れを取ろうと湯に浸かった。自分が入る事によって溢れ出す湯を見て、王冠が純金であるかどうかを調べる方法を発見した。嬉しさのあまり、浴槽から飛び出して外に出てこう叫んだそうだ。
『ヘウレーカ!ヘウレーカ!』と。
昔のギリシャ語で、見つけたや発見したと言う意味らしい。

余談が過ぎた。
はっきり言おう。長すぎた。
風呂場で出来事は割愛するが、俺は風呂場でフェラを数秒された。
思い返せば、後にも先にもりょうにフェラをされたのはその数秒だけだった。
結局それが俺と彼女の関係を示していたのかも知れない。
俺とりょうはシャワールームを出るとベッドへと移動した。

第10話~俺とりょう~

りょうは俺から思考力を奪う事に長けていた。
手を止めても雰囲気だけはしっかりと残す。
俺が快楽に溺死するのも、時間の問題だった。
最早俺に抵抗する術もない。
だが、諦めた訳では無かった。
―最後の最後、ラストチャンスを待つ―
りょうは俺をベッドに優しく寝かしつけた。
足の指から踝、脹脛、膝、太腿。
腰に周り、腹、脇腹、胸、脇、そして腕。
指、首筋へと丹念に丹念に舐め攻める。
そして俺に言う。
『少しだけ待ってね』
“ガサゴソ”と音がする。
一応言っておくが、実際に“ガサゴソ”という音がした訳ではない。
わかりやすいように“ガサゴソ”と言っているだけだ。
実際には“シャワワフェルン”的な音だった。と思う。
とにかく音がした後、さらに別の音が聞こえる。
“パチン”
これは実際の音にかなり近いので説明は不要だ。
後でわかった事だが、どうやらりょうはこの時黒の薄いゴム手袋を着用したらしい。
そしてまた俺を攻める。
今度は丹念に全身と言うよりは、下半身を重点的に攻めているようだった。
俺と言う城にはもう援軍も作戦も、弾薬も食料も残されていない。
りょうは舌は使うが、決して股間に舌が触れる事は無かった。
やはり手はどこかに触れ続けていたが、不意にその手が俺の足首を掴む。
そして上へ、俺の上半身の方へと押し上げる。
なんとなく勘が働く。
俺は押し上げられた足、足首を自分の手で掴んだ。
その時だった。
『ふふふっ。入るかな。』
あらかじめローションで湿らされていたのか、ヌルリとした感触を尻穴に感じた。
『あっつ。』
俺は声を漏らした。
強めの口調でりょうが言う。
『ほらぁ、入ったよ。』
そう言ってズブリズブリと指を尻穴の奥へと押し込む。
『気持ちいいんでしょ?ほら?気持ちいい?』
りょうの口調が恐ろしい程に変わる。
『はいぃいいいいいいい』
俺は返事をするのに精一杯だ。
あの時と、あの時と同じだ。
乾電池。そう、あの夏の乾電池と同じだ。
りょうの攻めが甘くなる事はない。
短い経験だが、そう告げられる。
『ほらぁ、すごい入るよぉ』
そう言っては指先をこまめに動かして出し入れする。
さらに左手?右手?この際どちらでも良い。
余った方の手を使い、NYの頭部。つまりは亀頭を指先で触る。いや触る何て生易しいものではなかった。
高速のその動きは恐らくは目にも止まらぬ速さに違いない。
そう思いたかった。
そうでなければこの快楽はどこから来る?

『あっ田kgksjgtsgkdsj;おいwrえgdふぁーーー』

『気持、き、気持ちいいですぅううううう』

『いっいっだsdfがじゃkfdまfじゃえおlm、fvぁ』

『いぎっいぎそうですぅううううふぁsfねfrげwrgtds』

言葉にならない音が空しくマハラジャの207号室に響く。
混乱と快楽、非日常の入り口を開かれた俺の脳は忘却へ。
りょうが強い口調で俺に激を飛ばす。
『情けない事言ってんじゃないよ!!誰が勝手に発射(い)って良いって言った?』
駄目だ、最早彼女は完全に悪鬼と成り果てた。
俺は必死に、最後の力を振り絞り抵抗を試みる。
『ひへぇぇええええええ。もう、もう駄目ですぅううううう』
俺の言葉は虚しく空を舞う。
なおも高速の手は両手も動きを止めない。
止めないどころか速度が増しているようにも感じる。
尻穴ズポリ、指ピクピク、亀頭もシャアー♪
尻穴ズポリ、指ピクピク、亀頭もシャアー♪
尻穴ズポリ、指ピクピク、亀頭もシャアー♪
その動きは小室哲也のように目まぐるしく動く。
NYならぬTK。
俺と言うキーボードを巧みに操り、音を無理やり奏でさせる。
『ほらほら気持ちいいんでしょ!返事は!!』
さらなる強い口調。りょうは最早怒鳴っているようだった。
『いいです。いいです。発射(イ)かせて下さい。発射(イ)かせて下さい。』
もう、従うしかない。
俺は奴隷だ。
底辺だ。
負け犬だ。
りょうが怒鳴る。
『駄目っつってんだろ!!!』
『ほら名前言ってみな、名前!!』
『自分の名前叫んでみろよ!!』
強すぎる口調に俺はふと、ほんの一瞬だが我に返える。
『おがっおごっ』
『おがっ、おがっ、丘、丘、丘嶋でゲスぅううううううううう。』
もう大丈夫だ。
可笑しくなりそうな頭を順番に整理する。
―どうしてこうなった?どうしてこんな事に―
りょうがそれを分かったかのように攻める手を緩める。
緩急をつける様に、優しく言う。
『ほらぁ、どう気持ちいいでしょ?』
百七十キロの剛速球の後に九十キロのスローボールじゃさすがスラッガーも空振りしちまう。
俺は手堅くバントの構えで様子を伺った。
『そろそろ発射(イ)っていいでしょうか?』
顔色など伺う暇は無い。そもそも一度も目を開けていない。
りょうは言う。
『駄目よ。まだ発射(イ)かせないんだから』
そしてまた速度を速める。ここにネズミ捕りは居ない。オービスも彼女を取り締まれない。
俺は言う。
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
増すスピード。
怒鳴るりょう。
『まだよ。まだ駄目。』
懇願。
俺は再度言う。
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
りょうは答える。求めていない言葉を。
『まだよ。まだ駄目。』
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
『まだよ。まだ駄目。』
なおも増すスピード。
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
『まだよ。まだ駄目。』
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
さらに激しく。
『まだよ。まだ駄目。』
『いがっ、いがっ発射(イ)かせて下さい。』
増すスピード。
『お願いしまぅううううううう。イガっいがっいがぜでぇええええええええええ』
果てそうだった。
俺は死ぬのか?
そう考えたその時だった。
『仕方ないなぁ、じゃぁ発射(イ)っていいよ』
耳を疑った。
この戦いの終わりはもう近い・・・

最終話~俺とりょう様~

歓喜。
歓喜が全身を駆け巡る。
体中の血肉が沸き踊るようだった。
りょう様のお許しが出たのだ。
りょう様の指先のスピードは最高潮にまで達していた。
俺のニューヨークがりょう様と言うテロに合い、米軍出動までは時間の問題だった。
激しい手、指先の動き。
俺のNYはりょう様のTKテクニックで16ビートに達していた。
否!!
32ビートすらも上回っていただろう。
尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ!!
尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ!!
尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ尻穴ズポ指ピク亀頭シャッ!!
『もう、もお、いぎっいぎfdsdjfkrさgf』
『いぎっ!!いぎそうです!!』
りょう様は本当に俺を発射(イ)かそうとしてくれているのだろうか?
加速は増すばかり。
しかし運命を握るりょう様はいたずらっぽく笑った。ように見えてこう言い放った。
『ふふふっ。やっぱり発射(イ)っちゃ駄目ぇ』
不可。
理解不可。
何故。
理解不可。
不可思議。
摩訶不思議。
―何故?何故?何故?何故?何故?―
『もう、もうぅうううう』
音速。
いや、光速ほどに感じられるりょう様の手の動き。
発射(イ)かせないのなら何故こんな動きを?
『駄目ですっ。駄目ですっうううわぁあらrふぁskrjfごいsdfjvglksdjfhljwhdekuahwbesfdakjsdfnaskjdfhnasjkd;fasdkfspdfks;ldfcmわぁあああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー』
『駄目っていってるでしょ』
『いぎっいぎっいぎっまっす。いぎます。出るぅ。出るくううううううううううううううううううううわぁあああああああああああああああああああ出るうううううううううううううううーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』

 

 

 

 

 

 

 

俺は遂に果てた。
果てていた。
どのくらいの時が経ったのか?
静寂の中、聞こえるのは我に返った俺の荒い息遣いだけだった。
―りょう様は?りょう様はどこに?―
上半身を起こすとりょう様は変わらずそこに居た。
俺はりょう様に言った。
『申し訳ありません。勝手に発射(イ)って出してしまいましたぁ!!』
天使の微笑みでりょう様は俺に言った。
『何が出たの?見てみなよ』
りょう様は俺のNYへと視線を落とした。
俺も自身のNYを見る。
そこには信じられない光景があった。
何も出ちゃいなかった。
だらしなくうなだれるNY。
涎のよの字も出ていない。
りょう様の乾いた心のようにNYは乾いていた。
もう誰も守る事なんて出来やしない生用心棒。
『―これは…?―』
思わず心の声が漏れた。
りょう様が言った。
『ドライオーガズム的なもんじゃない?』
俺は急に恥ずかしくなって、照れ笑いをした。
りょう様は最後に教えてくれた。
俺の秘密を。
『丘嶋くんって、Mの才能あるよ。』
俺はもう一度笑ってりょう様に答えた。
『そうでゲスか?』

エピローグ~俺とおふくろ~

もう春が芽吹き始めている。
太陽と鬼ごっこもたまには悪くない。
今日は休みだ。月とはまた夜にでも会えばいい。
柔らかな光が俺を包み込んでくれる。
街は暖かくなるにつれ冬とは違った様相を見せてくれる。
俺は【痴女りたい】での一件をあらためて思い返していた。
依頼主である星社長にはすでに先日レポートにまとめて報告を終えていた。
俺はパソコンのモニター見つめる。
“夢の女”がそこには居た。
ドキドキメモリーのキャラクターりょうちゃんのモデルになったグラビアアイドル。
いくつかの操作をこなしてそのデスクトップ画像を消去する。
名残惜しさはない、と言えば嘘になる。
苦い思い出が甘くなる事はない。
そう、経験がいつも俺にそう告げる。
俺は新たな女の写真をデスクトップ画像に設定する。
その女は赤いTバックをはいていた。
顔はモザイクで良くわからないが、魅力的に見えた。
―フッ、今考えるとあの店の修正は惨い―
それでもいい。
俺は妙に納得をしてパソコンの電源を落とした。
丘嶋にはなんとなく、後日ブラックコーヒーをご馳走した。
糖尿の疑いがある事は知っていた。
社長への借りも返した。
依頼者からの信頼は守れたつもりだ。
ふと携帯を見る。
俺はそれを手に取る。
久しぶりの番号を呼び出しプッシュする。

『もしもし、お袋か?俺…だけど。今度連休取れたら帰るから。』

終わり

KNHS ~春日部ニューハーフ物語~ 第5話

8月某日。
俺は上野駅に居た。
駅の構内だというのに暑い。
滝とまではいかなくても、汗が流れ落ちる。
グレーの服を着てこなくて良かったとつくづく思う。
前日に電話しておいた【真打ニューハーフクラブ】の予約時間は18時。
スマホの時計に目をやるとまだ15時。少々早く着きすぎたみたいだ。
ふと思えば小腹が空いていた。ソーセージディナーの前のおやつに時間にちょうどいい。
俺は上野駅を出てアメ横に繰り出すことにした。
入る前からして雑多に店と人がごった返している。
地元とは違う雰囲気でもどこか懐かしい気がした。
人ごみが好きって訳じゃないけど、どこか異国情緒のあるアメ横は好きだ。
店先で売られている怪しげな腕時計やお菓子がやけに魅力的に映る。
昔あったエッチな本の自動販売機みたいだ。
どんな内容か表紙さえもわからない時もある。
買って中身を見てみるととんでもなく写真も漫画も古い。
それでも手を伸ばしそうになる。きっと買ってしまえばその日のうちに後悔するかも知れない。
目的が違うので今日は止めておこう。
鮮魚店の値段はあって無いような物。ガナリ声で売り上げのラストスパートを店主が欠けている。
マラソンと一緒でペースも考えず朝一から怒鳴ってれば最後までもたなそうだ。
アメ横も一昔前と違って随分様変わりしたんだろう。
とは言っても、昔のアメ横は知らないのであくまで予想。
アメ横を少し進むと韓国のホットック、トルコのドネルケバブ、それに中国の小龍包の店がお目見えする。そして築地も近いので回転寿司屋なんかもある。
食欲が加速する。そこまで減っていないと思っていたお腹は予想以上に泣き叫ぶ。
夏ってのは不思議なもんで、暑い分汗も出るし直ぐにエネルギーが空っぽになる。それでいて直ぐに補給をしないと今度は暑さにやられて何も食べられなくなる。
急いで食べたい物を思い浮かべる。
早く食べないと何も食べられなくなる。
白河さん流で言えば、経験がそう告げてるってね。あんたもそう思うだろ?
とりあえず一番強烈に視覚でアピールの感じたドネルケバブに決めた。
ワンコイン500円で妄想観光がぐっと現実味を帯びる。
一番辛い山崎スペシャルと書かれているのを注文する。
金串にささった何百枚もの肉・肉・肉。
クルクルと周りながら焼けていく様子はバレリーナかフィギアスケーターのようだけどちょっと寸胴だ。
でも、今の俺にはそれこそ世界一魅力的に見える絶世の美女。
店員は慣れた手つきで肉をそぎ落としていく。
俺の手までトルコからの直行便で運ばれる。わずか数秒のフライト。
ずっしりと重い。キャベツとトマトそしてもちろん肉。
ピタパンの中に広がるトルコにかぶりついた。
『う~んイスタンブール』
思わず俺の知ってるトルコの全知識が口をついて出た。
スパイシーなピリ辛のソースと肉汁。
それに野菜とぴたぱんと肉の歯応えが三位一体でまさに最強。
アニメの合体ロボだって、コレには勝てない。
なあ、あんたもそう思うだろ?
俺はペロリとドネルケバブを平らげて、もう少しアメ横をふらつく事にした。

KNHS ~春日部ニューハーフ物語~ 第2話

イエスと答え勇んで席に戻ったはいいけど…
さっぱりと掴めない?一体どうすりゃいいんだ?
いかにもって面持ちで腕まで組んで考え込んでると、隣の丘島さんがうまく針に食いついてくれた。
この人を釣るのは練り餌で十分。
鯉みたいにパクパクとすぐ話しかけてくれた。
『富士田。社長に何を言われたんでゲスか?珍しく腕なんか組んで。』
俺はエサ欲しそうに見ている丘島さんに言った。
『いやあ。社長に頼まれ事で。なんかニューハーフの店に行って来いって言われたんすよ。』
少し考え込んで岡島さんは言った。
『なるほど~。そう言えば今度ニューハーフの女の子を採用してみるって言ってたでゲス。たぶんその兼ね合いでゲスね。』
合点がいった。
つまり俺は先遣隊に任命されたって訳だ。生贄じゃなくてとにかく良かった。
心の中でホッと胸を撫で下ろした。
俺は少し丘島さんと世間話をしてから仕事に戻った。

 

遅番である俺は深夜3時を過ぎると時間に余裕が出来て来る。
注文の電話がけたたましく鳴るのがその時間まで。
外を見ると人なんて殆ど歩いていない。
いくら都会じゃないからって繁華街くらいはある。
でもこの時間にもなれば、さすがに息を潜めたように街は静まり返る。
裏腹に俺の心が躍っているのは社長からの頼まれ事で頭がいっぱいだからだ。
はてさてどうしたものか?
丘島さんだと色々聞くのはちょっと頼りない。古林さんや池元さんも物足りない。かと言って邑木さんも違う気がする。
あっそうそう。邑木さんも古林さんも池元さんも皆俺の同僚、って言っても先輩なんだけどね。
人にはそれぞれ得意分野がある。
丘島さんは車。池元さんは何故かフィリピン。邑木さんは一般常識とか色々。
そして古林さんは…
まあ、何かあるだろうなんて考えながら俺はある人にコンタクトを取る事に決めていた。

続く。

KNHS ~春日部ニューハーフ物語~ 第1話

サい玉県の端っこの端、スプリングデイクラブタウン(SDCT)って街を知ってるかい?
あまり有名なのがないもんだからアニメのキャラクターと藤の木をゴリ押ししてる。
都会でもないし田舎でもないけど結構住みやすいんだ。
俺はそこで生まれ育った。
それなりの高校で楽しくやって、今は街で結構有名な風俗店で日々奮闘中って訳。
俺の話をもう少し続けさせてもらう。
こう見えて…つってもあんたには俺の姿は見えないか?
まあ、こんな俺だけど頼ってくる奴らがいる。
トラブルシューターって言うと大げさかな?
誰が言い出したのか、便利屋のユウヤって言えばそれなりに知られてるんだぜ。
要は、昔っから頼まれると断れないのが俺の性分って事。
人生で一度だってキラキラ光った事なんてないけど、他人だったら輝かせた事もある。
さしずめ舞台の裏方、黒子役がこの俺。
さーて、俺の話はここら辺にして。
物語は俺の勤めていた風俗店から始まる。
ギッラギラの太陽がこんがりバーベキューみたいに俺の体を焼いちゃいそうな暑い日だった。
額に流れる汗をシャツでごしごし拭きながら階段を上って出社。
ドアを開けて、下っ端の俺は元気良く挨拶をする。
『おはようございまぁ~っす』
一直線に自分のデスクへ向かった。
席に着くや否や、一息つきたいのにお呼びがかかる。
トホホ、人気者は辛いね。
俺を呼んだのは社長だった。
いつもは親しみやすい社長だけど、そん時はちょっと違った。
なんて言うのか…暗い訳でもないけど俺を呼ぶ声が違ったんだ。
俺は社長の席にすぐに向かった。
『富士田、お前に頼みがある』
ほーら来た来た。みんな俺を頼ってくる。
俺ってそんなに暇に見えるんだろうか?
あっそうそう、言い忘れてたけど俺のフルネームは富士田ユウヤ。
結構いい名前だろ?まあ、俺の名前の話はもういいか?
で、社長が言うんだ。
この俺に。
『お前、男と経験あるか?』
わかってると思うけど、社長の言う経験はアッチの経験。
もちろん俺は正真正銘のノンケ。
ノンケってのは、その業界では普通に生まれた性別のまま、違う性別の人が恋愛だったり性の対象の人の事らしい。偉そうに講釈たれてる俺だけど、俺も色々調べたからね。
もちろん俺は社長に言った。
『いや、ないッスよ。』
女性経験も乏しい俺は疑われてたのか?なんせ、奥手なもんだから入社当時はホモじゃないかって噂が出たくらい自慢じゃないけど女っ気がないのが俺自身の悩みの種。
社長はその答えを待ってたのか、知ってたのかさらに俺に言った。
『よしっ。ちょうど良い。じゃあ、お前ニューハーフの店でいっちょ経験して来い。』
えっ?えっ?えっ?
少々の事じゃ驚かないけど、いくら便利屋でも限度がある。
出来る出来ないとは別にしたくないだってもちろんある。
だから即決って思ったけど、でもちゃーんとじっくり考えたんだ。
何事も焦りは禁物だからね。
こんな経験そうそう自分じゃしてみようなんて思わない。
これはある意味俺自身のレベルアップに繋がるってね。
なぁ、あんたもそう思うだろ?
だから俺は言った。
『是非、経験させて頂きますっ!!』
続く。

KNHS ~春日部ニューハーフ物語~ プロローグ

プロローグ

人生で最大に変わった事?俺ならこう答えるよ。
27歳の夏。
たった一人、たった一度の出会いが俺自身をぶっ壊したってね。
当時の俺は考えた事もなかった。
心と体がはぐれちまって同じじゃないなんてさ。
色んなモノがコロコロと変わって行くけど変わらないもんもある。
変わる方がイイのか、変わらないのがイイのかなんて今の俺にもわからない。
でも、考えるようになったんだ。
今は、俺は。
あいつに出会ってから。

なぁ、そこのあんた。
考えて欲しいんだ。
あんたが男なら、もし自分の体だけが女だったらってね。
これは自分の心と体があべこべになっちまった奴と俺自身の話。
なぁ、ニューハーフって知ってるかい?
あんたももう、考えてる筈だ。
性同一性障害ってのを。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第二十一話

混乱と快楽、非日常の入り口を開かれた俺の脳は忘却へ。
りょうが強い口調で俺に激を飛ばす。
『情けない事言ってんじゃないよ!!誰が勝手に発射(い)って良いって言った?』
駄目だ、最早彼女は完全に悪鬼と成り果てた。
俺は必死に、最後の力を振り絞り抵抗を試みる。
『ひへぇぇええええええ。もう、もう駄目ですぅううううう』
俺の言葉は虚しく空を舞う。
なおも高速の手は両手も動きを止めない。
止めないどころか速度が増しているようにも感じる。
尻穴ズポリ、指ピクピク、亀頭もシャアー♪
尻穴ズポリ、指ピクピク、亀頭もシャアー♪
尻穴ズポリ、指ピクピク、亀頭もシャアー♪
その動きは小室哲也のように目まぐるしく動く。
NYならぬTK。
俺と言うキーボードを巧みに操り、音を無理やり奏でさせる。
『ほらほら気持ちいいんでしょ!返事は!!』
さらなる強い口調。
りょうは最早怒鳴っているようだった。
『いいです。いいです。発射(イ)かせて下さい。発射(イ)かせて下さい。』
もう、従うしかない。
俺は奴隷だ。
底辺だ。
負け犬だ。
りょうが怒鳴る。
『駄目っつってんだろ!!!』
『ほら名前言ってみな、名前!!』
『自分の名前叫んでみろよ!!』
強すぎる口調に俺はふと、ほんの一瞬だが我に返える。
『おがっおごっ』
『おがっ、おがっ、丘、丘、丘嶋でゲスぅううううううううう。』
もう大丈夫だ。
可笑しくなりそうな頭を順番に整理する。
―どうしてこうなった?どうしてこんな事に―
りょうがそれを分かったかのように攻める手を緩める。
緩急をつける様に、優しく言う。
『ほらぁ、どう気持ちいいでしょ?』
百七十キロの剛速球の後に九十キロのスローボールじゃさすがスラッガーも空振りしちまう。
俺は手堅くバントの構えで様子を伺った。
『そろそろ発射(イ)っていいでしょうか?』
顔色など伺う暇は無い。
そもそも一度も目を開けていない。
りょうは言う。
『駄目よ。まだ発射(イ)かせないんだから』
そしてまた速度を速める。ここにネズミ捕りは居ない。誰も彼女を取り締まれない。
俺は言う。
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
増すスピード。
言うりょう。
『まだよ。まだ駄目。』
懇願。
俺は再度言う。
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
りょうは答える。求めていない言葉を。
『まだよ。まだ駄目。』
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
『まだよ。まだ駄目。』
増すスピード。
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
『まだよ。まだ駄目。』
『いがっ、発射(イ)かせて下さい。』
さらに激しく。
『まだよ。まだ駄目。』
『いがっ、いがっ発射(イ)かせて下さい。』
増すスピード。
『お願いしまぅううううううう。イガっいがっいがぜでぇええええええええええ』
果てそうだった。
俺は死ぬのか?
そう考えたその時だった。
『仕方ないなぁ、じゃぁ発射(イ)っていいよ』
耳を疑った。
この戦いの終わりはもう近い・・・

to be continued

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第二十話

りょうは手に取ったローションを何やらタッパーウェアのような容器の中でお湯と混ぜ始めた。
ローションの滑らかさが彼女の指で疾走する。
生き物のようにネバネバと、持ち上げた手から落ちる。
『はうぅううううううう』
何が起こったのか、一瞬分からなかった。
事もあろうに、りょうは俺のNYへローションを垂らしたのだ。
そして高速で動かされる指先。
胴体から頭へ、そしてまた胴体へ。
頭、胴体、頭、頭、頭、胴体。
りょうが問う。
『どぉう?気持ちいい?』
胴体、頭、頭、頭、頭頂部、そして頭。
『気持ちいいですっ!気持ちいいですぅううううう!』
攻めはすでに生用心棒だけでなく、全身に広がりを見せ始めている。
このままここで俺は殺られるのか?
果てるのか?
彼女の攻めが最高潮かと思われた時、またも指は舌は動きを止める。
りょうがあの無邪気な笑顔を見せる。
『じゃあ、シャワー浴びよっか?』
―えぇぇえーーーー!!―
―ちょっと待って下さいよ!ちょっと待って下さいよ!―
―これで終わりですか?こんだけで終わりですか?―
俺の幻想はすぐに打ち砕かれることになる。
りょうはTバックを脱ぐとシャワールームに入った。
そして彼女は武器をローションからボディーソープへと持ち替えた。
俺への拷問は変わらずに続いた。
驚いた事に、いつの間にか浴槽には湯が張られていた。
ボディーソープで俺の体を念入りに弄びながら洗う彼女。
シャワーで体を洗い流すのも早々に、黒く濁った液体を俺に差し出す。
一息入れろという意味なのだろうか?
プラスティックのコップに入った液体はまさしくアメリカンコーヒーのそれと一緒で黒い。
俺は毒を食らわば皿までとばかりにそのコップを受け取る。
そっと口元に近づける。
この匂い。
遠いあの日を思い出す。
大学生のあの頃、いや大学にはそもそも行っていない。
高校生のあの頃、そもそも高校も中退だ。
もっと前、年端も行かないガキの頃だ。
―そうか!これはイソジンだ!―
俺はイソジンを口に含みうがいをした。
プロフェッショナルにはプロフェッショナルの流儀が、ルールがある。
それだけはおかしちゃいけない領域だ。
いやテリトリーだ。
言い方的にはそちらの方が格好良い。
彼女に空になったコップを渡すと彼女もうがいをした。
―やはり彼女がプロフェッショナルであると言う事実は動じない―
彼女は簡単に自分の体を綺麗にすると浴槽へと浸かった。
なみなみと入ったお湯が浴槽からお湯があふれ出す。

そう言えば…
昔、アルキメデスは王に黄金で作られた王冠が真に黄金だけで作られたかどうかを確かめろと命じたらしい。アルキメデスは考えた。もちろん冠を溶かしたりすれば簡単に分かることだが、素晴らしい細工の施された王冠を壊す訳にはいかない。アルキメデスは考え疲れ果てた。そして疲れを取ろうと湯に浸かった。自分が入る事によって溢れ出す湯を見て、王冠が純金であるかどうかを調べる方法を発見した。嬉しさのあまり、浴槽から飛び出して外に出てこう叫んだそうだ。
『ヘウレーカ!ヘウレーカ!』と。
昔のギリシャ語で、見つけたや発見したと言う意味らしい。

余談が過ぎた。
はっきり言おう。長すぎた。
風呂場で出来事は割愛するが、俺は風呂場でフェラを数秒された。
思い返せば、後にも先にもりょうにフェラをされたのはその数秒だけだった。
結局それが俺と彼女の関係を示していたのかも知れない。
俺とりょうはシャワールームを出るとベッドへと移動した。

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十九話

彼女は俺を弄んだ。
いや、俺と呼ぶべきか?
理性とは裏腹に蠢く俺自身のケモノ。
生用心棒。
略してNY。
NYを尻で、時にはしゃがみこんで胸で。
そして手で。
手は休まる事無く必ずどこかに触れる。
ミスタービーンズを。
背中を太ももを腕を。
ミスタービーンズを。
多くの場合はミスタービーンズを。
そして多くの場合は尻で、尻でNYを弄ぶ。
だが、永遠を感じる事は出来ない。
りょうは飽きたように、突然動きを止める。
吐息の漏れる声で俺に言った。
『こっち…』
りょうは俺の手を掴むとバスルームへと向かった。
バスルームには入らず、脱衣所辺りで立ち止まるりょう。
そして俺の後ろへと回り込む。
弄ぶ。
そしてまた弄ぶ。
知らなかった。
知らなかったんだ。
洗面所にあんな大きな鏡があるなんて。
いや、知っていたよ。
確かに知っていた。
だが、忘れてた。
忘れていたよ。
経験が教えてくれない時もある。
鏡は俺に屈辱を与える為だけの彼女の味方だ。
『どう、見えてるよ。恥ずかしいね?』
大きな鏡に映る小さな俺のNY。
まざまざと見せ付けられる。
惨い。
むごすぎるその光景に俺は思わず目を背ける。
何故かは分からない、願いが通じたのか?
すかさずりょうは俺との位置を変えた。
優しさ?彼女にもまだ残っていた人間の心。
今更そんな事はどうでも良かった。
いつの間にか置かれていた洗面台の薬品。
見覚えがある。
これは…ローション。
気づけば蛇口からお湯まで出ていたようだ。
湯気が立ち上っている。
恐らくはりょうの仕業だろう。
俺の目を盗んでこの程度の動作、彼女には目を瞑っても出来る造作もない事。
だが実際、目を瞑っていたのはほとんど私だった。
りょうは俺を洗面台に押し付ける。
この時の俺に抵抗する力は殆ど残っていなかった。
陶器で出来た無機質な洗面台の白い冷たさが俺を冷静にさせる。
俺はりょうと洗面台の間に囚われる。
囚人でもこの刑罰は御免こうむるだろう。
“プシュッ”
聞き覚えのある音が耳に入る。
―マヨネーズだ!そうだマヨネーズを出す時に空気が入っていてそれが出た時の音だ!―
経験が告げる。
どうやらりょうは、ローションと言う名の毒薬をとうとう俺に使うらしい。
俺は心の中で決意した。
すでに生用心棒はぬるぬるだ。
今さらどうと言う事はない。
受けて立つ。

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十八話

ベッドから立ち上がった俺に、待ち構えていたさらに過酷な運命。
それほどの責を俺は追うのか?
自問。
否、そんなはずはない。
自答。
都合の良い自分への言い訳だった。
りょうの手は相変わらず休まる事は決してなかった。
取り付かれたように、優しく時に激しく。
舌を使い、手を使い、そして恐らくは腰をくねらせ全身を使い。
そして俺に背後から語りかける。
『自分でパンツを脱いで。ゆっくり下ろしてね。』
俺に何もかもを捨て去れとこの女は言う。
夜。
孤独。
それだけで俺は何もかもを失ったと思っていた。
経験が告げて教えてくれた。
しかしりょうは違った。
彼女だけは違ったのかも知れない。
俺自身も知りえない、隠された感情を見つけ出しては彼女は捨て去れと言う。
すでに俺は、依頼を受けてしまった事に後悔を感じ始めていた。
つくづく自分の性格が嫌になる。
人に借りを作らず、常に優位に。回収する側へ。
だが実際はどうだろうか?俺には分からない。
考えるのを諦める。
俺は自分の下着に手を掛けた。
その瞬間。ふと俺が振り返った、その時。
りょうはおもむろに自分の背へと手を回すと、上半身唯一の守り。
俺に立ち塞がる連なる火山を、溶岩を自らの手で取り去った。
そこには二峰の雪山が姿を現す。
露になる乳房。
たゆん、たゆん。
十八禁の卑猥な漫画であればこう表現される擬音。
ルージュのように赤い乳頭。
立っている。
彼女も、りょうも俺と同じだった。
程好い大きさで、赤ん坊に独占はさせられないほどにしゃぶりたくなる。
そして形の良い、大きな。
大きな胸。これが胸。これぞ胸。
これこそが女の胸。
夢の女を思い起こされる。
―ここでも俺は遅れを取るのか?―
俺は手にかけたCalvin Kleinを素早くずり下ろした。
足を使い、完全な俺へと。
りょうはそっと俺の前へ回り、IKEAのバスタオルより癒しをあたえるように俺を抱きしめる。
かと思うと離れる。
俺のミスタービーンズと自分のミスビーンズをお見合いさせる。
掴まれた二の腕から、りょうの手の温度が伝わる。
さようならの様にりょうは後ろを向く。
そしてホックを外してスカートを床に落とす。
そして尻を、尻を、尻を!
AでもないZでもない。
無論HではあるがHではない。
俺は確かに見た。
見間違える筈がない。
彼女はアルファベット部隊二十番目の刺客。
そう…。
Tバックを着用していた。
その極小布面積しかないブラジャーとお揃いの赤のTバックを履いていた。
尻ホッペが完全に露出されていた。無防備な尻ホッペを俺の、俺の、事もあろうか俺の生用心棒に押し付ける。
冷やりと、冷たい感触が股間に伝わる。
しっとりと濡れているかのように錯覚する。
いや、濡れているのは生用心棒の汗のせいだった。
今更だが、経験がそう告げていた。

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十七話

りょうの攻めはさらに激しさを増す。
俺は両手をあげるように促される。
―こいつ!シャツやズボンのボタンだけじゃ飽き足らずにヒートテックまでその手に掛けて殺めるつもりか!―
だが俺はあえて相手の策略に従う。
素直に両手を上げた。
スルスルとシャツは、りょうの手によって俺の腹、胸、腕を伝ってまくし上げられていく。
しかし顔を覆うほどにたくし上げられた時に事件は起こった。
突然の停止。
りょうは急にヒートテックを脱がすのを止めた。
『見えないのって興奮するでしょ?』
そう言って、なんと自分の舌で汗ばんだ俺の背中を愛撫し始めたのだ。
―チッ!ここで視界に加え、両手の自由まで奪われるとは。俺もとうとうヤキが回ったか?―
なおもりょうの猛攻は続く。
『くすぐったい?』
そう言いながらもりょうは腰あたりから首筋まで丹念に俺の背中を舐め上げていく。
『いや、あっ、あっ、気持ちいいです。』
りょうの攻めが止むことは決してない。
彼女の攻めが雨ならば、世界中の飢饉問題、干ばつは全て解決されるだろう。
『乳首も気持ちいい?』
ここまでくれば…えーいままよ。
経験が告げる。
俺は流れに身を任せる。
『ハイ。』
良い返事だ。
ピッカピカの一年生にも決して負けてはいないつもりだ。
りょうは左手で俺のヒートテックを使い自由を奪いつつ、回り込むように俺の乳首を舐める。
チロチロ。
チロチロ。
まるでそんな音が聞こえそうなほどに。
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ。
と、漫画や文章ならこう描くべき高速の舌遣いを織り交ぜる。
何分かその攻めは続いたのだろうか?
あっと言う間でもあり、永遠でもある時間。
見えている俺の上半身は全てりょうの唾液で大海に変わっていた気がした。
りょうはようやく脱がせかけたヒートテックを俺の体から切り離した。
―しばしのお別れだ、ヒートテック。なぁに、またきっとどこかで会えるさ―
俺が別れの余韻に浸っている間にりょうはいつの間にか黒のハイネックニットを脱いでいた。
格闘技ならバックを取られたら終わりだ。
それはこのウインナースポーツとて同じ事が言える。
りょうは俺をその場に立たせる。
すでに正門は開いている。
今の彼女なら城内に侵入することは容易いだろう。
おれのズボンはいとも簡単に、彼女が手を下すまでもなく。
ただ、チャックと言っても外国人の名前ではない。
ジッパーの事だ。
そのチャックをりょうが下ろした。
立ち上がった瞬間にズボンは無残にも床へとずり落ちた。
いよいよ俺は下着一丁。
そう、大事なものは必ず守る。
仲間の死で涙に濡れたCalvin Kleinだけが俺を守ってくれていた。

続く