俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第三話

丘嶋の下卑たにやけ面が脳裏にこびりつく。
こいつとも数年来の付き合いだが、それに慣れる気配はない。
利害関係が無くなればと思いつつも利用価値がまだ残っている。
経験がそう告げている。

―トゥルルルルルルルル
けたたましく電話が鳴った。
俺はすばやくデスクの左前へと手を伸ばした。
『はい。』
―さあ仕事の時間だ今日も俺の一日が始まる―

ブラインド越しに見える景色はいつもと変わらない。
繁華街の獣達もだいぶ眼(ネオン)を閉じ始めている。
時計に眼をやると針は深夜の3時過ぎを刺していた。
オフィスは静寂で包まれている。
俺はこの世で最後の一本のようにゆっくりと煙草の煙を吐き出す。
そして咥えて、次はゆっくりと肺に煙を取り込む。
ゆっくりと優しく、染み込ませながら命を削る。
“煙草を吸えば確実に癌になる”
お偉いドクターがいつか俺に言っていた。
そう言われてもこいつは止められない。
それこそ止めればもっと早死にしちまうだろう。
そんな事を考えながらアルミ製の灰皿に煙草を押し付けた。
『ただ今戻りましたでゲス!』
静けさを破る、相変わらずの甲高い丘嶋の声がオフィスに響いた。
外出から戻ったようだ。
俺はオフィスの入り口を一瞥だけして、すぐにモニターへと向き直った。
画面には社長に依頼を受けた【痴女りたい】のWEBサイトが映し出されていた。
淫靡な女が数時間前と変わらず俺を見ている。
俺は《スケジュール》と書かれたメニューリンクをマウスを動かしてクリックした。
モニターには新たに一週間程度の日付が現れる。
お目当ての日付のリンクをクリックする。
幾人かの女が眼前に現れる。
どいつも卑猥なポージングで俺を誘っている。
モザイクの掛かった顔はどれも魅力的に映っていた。
誘われるように《あきら》と記された女の名前をクリックする。
スパイムービーのように《あきら》のデータを知る事が出来た。
ちょろいもんだ。
26歳、身長は164センチ。
バストがDカップ、ウエストは58センチ…
―違う、この女じゃない―
左に向いた矢印をクリックしてまた《スケジュール》へと戻る。
今度は《しょう》と記された女の名前をクリックする。
24歳、身長は154。
バストはB。
ウエストが57…
―こいつじゃないっ!―
また戻る。
そしてまた別の女をクリック。
単調な作業の繰り返し。
数人を続け様に目に焼き付ける。
眼に疲労が蓄積する。
俺をよそ目に丘島は戻ってからこちら、オフィス内を忙しく動き回っていたようだ。

そういえば…
“あなたは集中(あつ)くなると周りが見えないのね。”
昔、ある女に言われたセリフだ。
“俺が熱くなるのはお前だけだ。”
その言葉を女は待っていたのだろうか?
いや、俺がそんな気の利いたやつじゃない事ぐらいわかっていただろうか?
今となってはどうでもいい事だ。
過去を思い巡らせても、出てくるメニューはブラックコーヒーだけだ。

続く。