駐車場へと急ぐと愛車に乗り込んだ。
シートに素早く腰を落とす。
イグニッションキーを回す。
ハンドルを持つ。
―ちょっと手荒になるが、愛してないわけじゃないんだぜ―
心の中で相棒に呟いてからアクセルを踏み込んだ。
高速を使えば一時間少々。
東京都池袋。
北口。
目指す【痴女りたい】はそこにある。
岩槻インターチェンジから、東北道に乗る。
そして首都高へ。
まだ車のご機嫌は良いようだ。
しかしある事に気づく。
数日前のランチを豪勢にしておくべきだった。
牛丼レベルのガソリンじゃ相棒もすぐ腹が減る。
ケチってツケが回ってきた。
ガソリンが残り少ない。
財布には必要額と二千円程度の金しか入ってない。
下ろしている暇は無い。
それに帰りに下ろす事も出来ないだろう。
そもそも銀行に貯金などない。
よってキャッシュカードも持っていない。
だが、二千円分のガソリンがあれば自宅までは戻れるだろう。
依頼が先決だ。
信用を失ってしまっては二度と依頼は来ないだろう。
おまんまの食い上げになっちまう。
俺は深く考えず車を飛ばした。
もちろん法定速度でだ。
標識が目に飛び込む。池袋と記されてある。
俺は左にウインカーを出した。
池袋の街に吸い込まれるように、弧を描きながら速度を落とした。
高速を降りた後は程近くの駐車場へと車を停めた。
目的地よりは少し離れていたが、歩ける距離だ。
胸の高鳴りを抑えるのにはちょうど良かった。
今さらだが、もう一度持ち物を確認する。
財布、携帯。手帳。
そして何より、懐の用心棒。使わないに越した事はない。
だが必要であれば躊躇しない。
不思議な程に心は落ち着いていた。
準備は全てオーケイだ。
俺は【痴女りたい】へと向かった。
しかしいきなり行くのは紳士的じゃない。
一度電話を入れておく事にした。
番号を押すと呼び出し音が耳元から流れた。
『お電話ありがとうございます。悶々性感ヘルス、【痴女りたい】です。』
やけに元気の良い受付の声。
暗い野郎を想像していたが、勝手な思い違いだったようだ。
動揺。
だが、ここまで来てひるんでなどいられない。
怯えや迷いが生むのはいつも最悪の結果だけだ。
経験がそう告げていた。
そう思いながらも俺は無意識で声色を変えていた。
『あのお…初めて利用するんでゲスが、今空いてるんでゲスか?』
すぐさま答えは返ってきた。
『はい大丈夫ですよ。今ならお待たせせずにご案内可能です。』
安堵。
予定は狂っていたがどうやらここから取り戻せそうだ。
続けて受付の男が言ってきた。
『お名前を伺ってもよろしいですか?ご来店頂いた際にスムーズにご案内可能ですよ』
俺はとっさに答えた。
『私の名前は丘嶋でゲス。』
その後俺は、一通りの簡単なシステムなどをそのまま電話で聞いた。
ご丁寧に受付の男は店の詳細な場所を教えてくれた。
俺は電話を切った。
―思った通り、まだ丘嶋には利用価値がある―
続く。