池袋西口の繁華街。
懐かしく、やはり苦い思い出の詰まった街だ。
この街に色々教わった事は今も忘れちゃいない。
今日はこの街に借りを返すつもりだ。
俺はネオンを一瞥する。
東京の獣は、俺の街と違う。
いつだって大きな口をあけてカモを待っている。
いくつものネオン。
無数の獣が巣食っている。
眠らない獣の餌食に今日も誰かがなっているのだろう。
だが、俺は違う。
今夜は俺が獣を喰らう番だ。
ーキッチリと借りは、倍返しだ!!ー
俺はお最近お気に入りの台詞を心の中で呟いた。
西一番街。
一つ隣の通りを歩いた。
さしずめ迷路のように入り組んだ路地。
進んで行くと目的の場所はあった。
もちろん表に看板の類は出ていない。
周りの景色から受付の言葉と符合する。
どうやらこの場所のようだ。
―ここだ。間違いないっ―
もう一つの最近お気に入りの台詞を心の中で呟いた。
受付の男が確か電話で言っていた。
地下に降りた先のドアから店に入れと。
薄暗い階段を降りると聞いた通り、ドアがあった。
秘密を守るようにスチール製のドアは硬く閉じられている。
俺はゆっくりとドアノブを回した。
鍵は掛かっていない。
招かれざる客では無いようだ。
ドアを開ける。
『いらっしゃいませー!』
狭い店内に響き渡る声。
声の感じから先程の電話の男に間違いない。
経験がそう告げている。
坊主頭にずんぐりとした体格。
白いシャツに薄いブルーのネクタイ。
カウンター越しなのでズボンの色は分からない。
恐らく黒か紺だろう。
経験がそう告げていた。
三、四畳のスペースの半分近くを占めるカウンター。
簡素な丸椅子が三脚置かれている。
俺は男へと歩を進めた。
ここまできたら完全に腹は決まっている。
俺は受付の男に告げる。
『さっき電話した…』
言いかけると、オーバーリアクションで受付の男は数回頷いた。
『先ほどお電話頂いた丘嶋様ですね?お待ちしておりました。』
まずは相手が一本。
先手を取られたが次はそうはいかない。
今度はこちらのターンだ。
もちろん倍返しだ。
俺は言う。
『すぐ遊べるんでゲスね?良い娘はいるんでゲスか?』
矢継ぎ早に続けた。
『それなりに経験のある女の子が良いでゲスね。そういう娘は居るんでゲスか?』
受付に少し話す暇を与えた。
『大丈夫ですよ。今ならあきらちゃん…』
―違う、そいつじゃないっ!―
『それと、しょうちゃん…』
―そいつでもないっ!―
『後は…』
―さぁ何もかもゲロっちまえ―
俺は心の中で吼えた。
『…りょうちゃんですね。』
―ビンゴ!そいつだ―
『三名がただ今お待ち時間無しでご案内出来ます。どの女の子が宜しいですか?』
受付が俺の顔色を伺う。
―計画通り―
―ここは計画通りに―
俺は落ち着けるように自分に言い聞かせた。
『100分コースをりょうちゃん指名でゲス』
俺は受付に出来る限り悟られないように、今一度財布の中身を確認した。
―100分コースの料金、駐車場代、帰りのガソリン代、そして指名料金―
俺の行動を遮る様に受付が言った。
『では、100分コースとご指名料金、それと入会金を合わせて…』
思わず心の声がポツリと漏れる。
『―えっ、入会金?―』
―入会金だと?入会金だと?入会金だと?―
―なん…だと?―
続く。