俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第一話

数年前の3月初旬。
太陽は低く、凍える寒さの残るそんな日だった。

そう、俺の運命が変わった日は・・・

その日、変わらない日常を感じながら俺は一人目覚めた。
孤独は常に寂しさを感じさせるが時に様々な煩わしさから開放をしてくれる、俺の10年以上のパートナーだ。
ふと、時計に目をやる
―少し眠りすぎたようだ―
急いで支度をして家を出た。
駐車場へと向かう。
冴えた車が俺を待っていた。
優しく愛撫するようにそっとドアを開ける。そしてシートにゆっくりと座り込む。
イグニッションキーを回す。
心地よいエンジン音と微かな振動。胎内の鼓動にも似ている。
ゆっくりとアクセルを踏み込み会社へと向かった。

車の中で煙草とも寒さに濁る息ともつかない白い煙を漂わせながら、俺は今日の仕事のスケジュールを整理する。
―今日は確か、面接が一件?―
そんな事を考えているうちに、出勤前に必ず寄るコンビエンスストアに辿り着く。
空腹では頭も働かない。
水、ノンシュガーのミルクコーヒー、サンドウィッチ、そして煙草。
レジではいつもの顔が待っている。
俺に恋人は居ない。
レジの女にふと目をやる。
―少し若すぎる。女は30前後が一番熟れている―
経験がそう告げている。
コンビニエンスストアを出ると再び車を走らせる。
会社までは僅か数分の距離。
最後の角を曲がると駐車場が見えてきた。
俺はゆっくりと駐車場に車を流し込む。
停車位置の目測を決めたところでシフトレバーを一旦パーキングに入れる。
そして次はバックに。
あくまで優しく慎重に。
一発で決めない事には車がへそを曲げちまう。
今日もしっかりと駐車は決まった。車はご機嫌にボンネットから熱を放っている。
俺は車から降りると会社へと向かった。
近くの公園では高校生とおぼしき男女がイチャついている。
少し過去を思い巡らそうか?いや、止めとこう。
甘酸っぱい経験など持ち合わせていない。
レモンスカッシュよりブラックコーヒーが俺には甘いくらいだ。
そんな事を考えているうちに会社につく。
オフィスに入ると自分のデスクに座り、まずは一服。
愛用のジッポライターで煙草に火を着ける。
微かなオイルの匂いが鼻をつく。嫌いじゃない香りだ。
煙草を半分ほど吸った所で今度はパソコン、つまりはパーソナルコンピューターを立ち上げる。
そいつは無機質な機械音を鳴らしたかと思うと、モニターに夢の女を映し出した。
だが見とれている暇はない。俺には仕事がある。

『おい、白川』
俺を呼ぶ声だ。こんな風に俺を呼びつける男は会社に一人しか居ない。
オフィスの支配者、社長である星敏彰の声だ。
俺は返事をすると社長のデスクへと向かった。
社長の前に立つ否やその刹那、こう告げられた。
『お前、今度の休みに性感とか痴女の店に行って勉強してこい。』
俺はまだ眠りの中に居たのか?
耳を疑う言葉が俺に放たれた。
社長とはそれなりに長い付き合いがある。
俺は何かの間違いだと結論付けて聞き返す。
『もう一度よろしいですか?』
今度は聞き逃すまい。社長の口元にじっと目をやる。
社長は俺の言葉を待ちきらずに言う。
『だからMの経験をして来い』
聞こえてきたのは同じ意味の言葉。どうやら耳鼻科に用は無く、俺に必要なのはM、つまりはマゾヒストが利用する性感マッサージ店のようだ。
社長は俺がS、つまりはサディスト寄りである事を忘れちまったらしい。

続く。