でも社長の言う事は絶対だ。
これは形式的な話しなんかじゃない。
俺にそう思わせる理由を社長は持っている。
今、俺が生きているのはこの社長のおかげだ。
過去を探るのには時間が足りない。この話はまた別の機会にしよう。
俺は腹を決めた。
恩を返せるのなら何だってやってやる。
人に借りを作るのは好きじゃない。
なんせ生まれた時からお袋に人生と言う大きな借りを作っちまっている。幸せで返すのにはまだまだ時間がかかる。
俺は社長に言った。
『わかりました。店はどちらに行けば?』
社長は目の前のキーボードを叩き、マウスを小慣れた動きでクリックする。
モニターの画面が幾度か変わり、いくつかのWEBサイトが表示された。
『この中のどれかだな?』
社長は促すようにモニターを見てから俺を見た。
覗き込んだモニターには卑猥な店名がずらりと並んでいる。
すかさず社長がマウスをクリックする。
『ここなんかどうだ。いいんじゃないか?』
モニターに表示された店は【痴女りたい】と言う名前だった。
妙齢の女性が口元に自分の指をやり、妖艶な様相でこちらを見ている。
『わかりました。そちらに行きます。』
俺は二つ返事で店を決めて依頼を受けた。
そのまま俺は社長と少し打ち合わせをしてから自分のデスクへと戻った。
そしてまた一服。
既にヤニで汚れた天井に追い討ちをかけるかのように煙を吐いて静かに目を瞑った。
『社長からは何の話だったんでゲスか』
どうやら俺には一瞬たりとも休息は許されないらしい。
静寂を破る甲高い丘嶋の声。
『まあ、ちょっと…』
含みを持たす言い方をしながらも話をはぐらかした。
全てを話す必要性は感じない。
こちらから与える情報は少なく、いただく情報はごっそりと。
これも経験がそう告げている。
丘嶋は少しむくれた顔をして言った。
『ちぇっ、つまんねぇでゲス』
ただ、元々むくれた顔をしているのか?本当にむくれているかは傍目には分からない。
これも経験がそう告げている。
目の前のキーボードを叩きながら俺は言った。
『そろそろ電話の鳴る時間だ。準備を』
モニターが検索結果を表示すると同時に丘嶋の返事が横からする。
『へーい。わっかりやしたでゲス』
続く