俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十七話

りょうの攻めはさらに激しさを増す。
俺は両手をあげるように促される。
―こいつ!シャツやズボンのボタンだけじゃ飽き足らずにヒートテックまでその手に掛けて殺めるつもりか!―
だが俺はあえて相手の策略に従う。
素直に両手を上げた。
スルスルとシャツは、りょうの手によって俺の腹、胸、腕を伝ってまくし上げられていく。
しかし顔を覆うほどにたくし上げられた時に事件は起こった。
突然の停止。
りょうは急にヒートテックを脱がすのを止めた。
『見えないのって興奮するでしょ?』
そう言って、なんと自分の舌で汗ばんだ俺の背中を愛撫し始めたのだ。
―チッ!ここで視界に加え、両手の自由まで奪われるとは。俺もとうとうヤキが回ったか?―
なおもりょうの猛攻は続く。
『くすぐったい?』
そう言いながらもりょうは腰あたりから首筋まで丹念に俺の背中を舐め上げていく。
『いや、あっ、あっ、気持ちいいです。』
りょうの攻めが止むことは決してない。
彼女の攻めが雨ならば、世界中の飢饉問題、干ばつは全て解決されるだろう。
『乳首も気持ちいい?』
ここまでくれば…えーいままよ。
経験が告げる。
俺は流れに身を任せる。
『ハイ。』
良い返事だ。
ピッカピカの一年生にも決して負けてはいないつもりだ。
りょうは左手で俺のヒートテックを使い自由を奪いつつ、回り込むように俺の乳首を舐める。
チロチロ。
チロチロ。
まるでそんな音が聞こえそうなほどに。
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ。
と、漫画や文章ならこう描くべき高速の舌遣いを織り交ぜる。
何分かその攻めは続いたのだろうか?
あっと言う間でもあり、永遠でもある時間。
見えている俺の上半身は全てりょうの唾液で大海に変わっていた気がした。
りょうはようやく脱がせかけたヒートテックを俺の体から切り離した。
―しばしのお別れだ、ヒートテック。なぁに、またきっとどこかで会えるさ―
俺が別れの余韻に浸っている間にりょうはいつの間にか黒のハイネックニットを脱いでいた。
格闘技ならバックを取られたら終わりだ。
それはこのウインナースポーツとて同じ事が言える。
りょうは俺をその場に立たせる。
すでに正門は開いている。
今の彼女なら城内に侵入することは容易いだろう。
おれのズボンはいとも簡単に、彼女が手を下すまでもなく。
ただ、チャックと言っても外国人の名前ではない。
ジッパーの事だ。
そのチャックをりょうが下ろした。
立ち上がった瞬間にズボンは無残にも床へとずり落ちた。
いよいよ俺は下着一丁。
そう、大事なものは必ず守る。
仲間の死で涙に濡れたCalvin Kleinだけが俺を守ってくれていた。

続く

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十六話

りょうの手は首元から、俺の胸へ蛇のように絡みついてきた。
そのまま優しくシャツの上から俺のミスタービーンズに弧を描くように触れる。
そっと顔を近づけて言った。
『今日はどんな風にされたいの?』
りょうの生温かい、だが心地よい吐息が俺の耳を撫でる。
俺は突然の出来事に戸惑いながらも答えた。
『えっ、えっ、いやっ。色々、なんかして貰えたらって思ってます。』
りょうの顔は見えなくても魔性の微笑が脳裏に映る。
経験がそう告げた。
『可愛いわね。じゃあ色々しようね。』
そう言いながらりょうは俺のシャツのボタンに手を掛ける。
一つ一つ上から順番にボタンという名のカップルを、事も無げに別れさせていく。
りょうの馴れた手つきにはどんな結婚相談所だって太刀打ち出来ない。
そしてあれよと言う間に俺のシャツが完全にはだける。
りょうが優しく俺に問いかける。
『気持ち良い?』
俺はもちろんしっかりとその言葉に答えてやる。
『は、はひぃいい』
このままでは完全にりょうと言う名の巨大な陰謀に飲み込まれちまいそうだ。
だが、俺にはまだヒートテックと言う牙城が残されている。
ここからが真の意味でりょうのお手並みを拝見といこう。
りょうの手は休む事無く、それでいてゆっくりと俺の体の感触を、温度を楽しんでいる。
そしてズボンのボタンにも手を掛ける。
ジーンズのボタン。
それはシャツのようにおいそれとはいかないはずだ。
経験が俺にそう告げてくれる。
リベットボタンと呼ばれる真鍮製の鎧を着たナイトが俺の正門を警護しているはずだ。
しかしおかしい。
ズボンにはベルトが付き物のはず?

■説明しよう!!
白川は急いで家を出た為、いつもならば絶対にしているベルトをしていなかったのだ!!

―そうか、そう言う事だったのか!―
話は戻る。
りょうは俺が脳内で一人会話を楽しんでいる間に、すでにナイトを打ち負かしていた様だった。
そしてもう一度耳元で囁く。
『ふふっ。少し大きくなってるね』
甘い、甘すぎる。
ちょろい、ちょろ過ぎる。
これだから女は。
女ってやつは。
りょうはここに来てから今まで、俺をリードして来たつもりだろうがそうはイカの金玉だった。
りょうはひとつ大きなミスを犯した。
いや読み間違いとも言うべきか。
この時おれの自身の生用心棒はすでに怒り、そして猛り狂っていた。
そう、完全にフル勃起だった。
そしてそうはイカの金玉だけに、イカ臭い生用心棒の汗も噴出し始めていた。
そう、カウパーだ。
経験だけがそう告げていた。

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十五話

外の気温とは裏腹に、エアコンのせいか室内は暖かかった
少し汗ばんできていた。
シャワーを浴びたい気分だった。
だがそんな時間は俺には残されていなかった。
俺は煙草に火をつけ煙をくゆらせた。
やけに煙草が旨くない。
俺は数回煙草を吸うと早々に煙草を灰皿に押し付けた。
入り口から音がした。
“コンコン”
どうやら誰か来たようだ。
俺は入り口へと向かった。
深呼吸をしてドアを開けた。
『はじめまして。りょうです。よろしくね』
にこやかに俺に笑みを向ける女。
紛う事なきあの女だ。
りょうだ。
りょうは大きめのキャメルカラーのバックを持っていた。
黒のミドル丈のトレンチコート。
襟元から覗かせた黒のハイネックニット。
赤のチェックのスカートがコートの裾から少しだけ見えている。
小さい目の網タイツに飾り気のない黒のロングブーツ。
―やはり受付の男は紛れも無いプロフェッショナルだ―
俺は心の中であらためて納得するとりょうに挨拶を返した。
『どうも、始めまして。今日はお願いします。』
柄にも無く舞い上がっているのか?
俺の中の丘嶋はすっかり影を潜めていた。
りょうを室内へと促した。
ソファー近くにりょうは荷物を置いてから俺に言った。
『ちょっと緊張してる?』
俺は自分の口元を確認した。
―この俺が笑っている?まさか…な―
俺はりょうに強く言い放った。
『別に!緊張とかしてないですよー。しないっすよ。』
りょうは微笑んだようだった。
『フフッ。ならいいんだけど。あっこれ。』
俺は領収書と書かれた茶封筒をりょうから渡された。
中身は確認する事無く、立ったままテーブルに置いた。
プロフェッショナルを疑うような事を俺はしない。
問題は無い筈だ。
経験がそう告げている。
りょうはコートを脱ぐとクロゼットに向かいコートをハンガーに通してしまった。
ソファー脇に立つ俺を余所目にりょうはソファーに腰を掛けた。
『丘嶋くんだっけ、立ってないで隣に座れば?』
俺は言われるがまま無言でりょうの隣に腰を下ろす。
待っていたかのようにりょうが言った。
『アンケートは書いてくれた?』
俺はポケットから先ほど書き終えたばかりのアンケートをりょうに渡した。
りょうはアンケートを熱心に見つめた。
『うんうん、なるほどね。今日は自分の性癖を確かめに来たんだ?』
俺は答えた。
『そうです。自分は自分の性癖がいまいち分からなくて―』
自分でも驚くほど饒舌に俺は作ってきた設定を話した。
設定はこうだった。
自分の性癖を確かめたい男。
色んな店を渡り歩いている男。
今日は初めて性感マッサージに挑戦するから色々試して欲しい。
りょうは俺の話を聞きながら何やら準備に取り掛かっていた。
そして俺の話が終わると同時に準備も終えていたようだった。
りょうが独り言のようにポツリと言った。
『そっか。じゃぁ道具持ってくれば良かったな…』
うつむいて悲しげな表情をしていたのが今でも印象的だ。
俺はりょうに確認をした。
『道具って…もしかして、バイブ?バイブの事?』
またりょうは俺に微笑みかけて言った。
『ふふっ。それも一応あるけど縄とか手錠とか色々持ってるの。この店の前はSM店で働いてたからね。そっちの業界の方が7~8年くらいだから長いの。まだこの店は3年目だからね。』
これにはさすがの俺も驚いた。
今夜はプロフェッショナルの集いだ。
とんだパーティーナイトになりそうな予感がいっそう強くなった。
期待に胸は膨らんだが、あるひとつの疑問が頭をよぎる。
―WEBページには確かに26歳と書かれていた。少なく見積もっても17歳から働いている事になる―
りょうは続けた。
『あっ、でもちゃんと普通の店も2~3年経験あるよ。あーあ、分かってたら道具持ってきたのにな』
そう言って子供っぽく笑ったりょうの瞳には狂気がやどっているようにも感じた。
これは罠なのか?
罠だったのか?
―そうか、わかったぞ!!掛け持ちだ。掛け持ちに違いない―
りょうはベッドの上に移動をすると俺を手招きした。
俺はソファーから立ち上がりベッドへと移動した。
ベッドに座るや否や、りょうが音も立てずに俺に襲いかかってきた。
りょうの手が俺の首元にするりと伸びる。
油断。
大敵。
万事、休す。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十四話

十九歳、夏。
扇風機の音と息遣いだけが聞こえる。
そこは以前働いていた職場の寮だった。
汗ばむ二人が居る。
俺ともう一人は女だ。
女は俺に卑猥な格好をさせて、俺のアナルへと指を突っ込んでいた。
『ねぇ、簡単に入ったよ。』
今でも鮮明に覚えている。
俺にはそうなるべく素質が備わって居たようだ。
『ねぇ、この乾電池入れてみてもいい?』
『わぁ、乾電池も入るよ』
『ねぇ、どんな感じ?気持ちいい?』
俯瞰で見る俺は恍惚の表情を浮かべている。
『もういいって、もういいって、何か出そう。うんこかも知れない』
俺は無駄な抵抗を試みている。
彼女には通じない。
『すごい勃起してるよ。気持ち良いんでしょう?』
俺は抵抗を続ける。
本当は続けてほしかったのか?俺には分からない。
『本当にうんこ漏らしそう。もう止めろ』
『大丈夫、何も出ないよ。』
彼女は本当に楽しそうな声をしていた。
フラッシュバック。
『もう止めよう。』
『私やっと好きな人が出来たの。』
『お願い別れて欲しい。』
『どきどきメモリアルに夢中だと本当に周りが見えないね』
『恋愛ゲーム一筋ね』
『何がコンプリートよ!』
『何がりょうちゃんを落とせば最後よ!』
『いつまでたっても落とせないじゃない!』
『そういう所が嫌いだった…』
『そもそも付き合ってないじゃない。』
『じゃあね。バイバイ。』

俺は一筋の汗と共に目を開けた。
現実が飛び込んでくる。
薄暗いホテルの一室。
今すぐブラックコーヒーを飲みたい気分だ。
ただブラックコーヒーなど本当は必要ない。
それよりも苦いリアルが俺の置かれた現状だからだ。
それに…。
そもそもミルクがないとコーヒーは飲めない。
経験がそう告げていた。
俺はもう一度ペンを取り、アンケートの続きを書き終えるとポケットに突っ込んだ。
携帯を手に取ると【痴女りたい】に電話をした。
先程の受付の男が電話に出る。
俺はホテル名と部屋番号を告げた。
『ホテルマハラジャに入ったでゲス。207号室によろしくでゲス。りょうちゃんがくれば嬉しいでゲス。』
それだけ言うと俺は電話を切った。

続く

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十三話

今宵ケモノを喰らい、選ばれた者へと俺は変貌を遂げる。
余談だがエレベーターと選ばれたは似ている。
エレベーターのドアは数秒で開き、新しい世界を俺に覗かせた。
右か、左か?どちらだ?
答えはすぐに出た、207号室は右側と案内板が指し示していた。
俺はエレベーターを出ると207号室へと急いだ。
ドアの上方には部屋番号の書かれたランプが点滅している。
この点滅が何を意味するのか。危険のサインか、当選の歓迎か?
この時の俺は知る由も無かった。
俺は受け取った鍵を差し込むとそのまま右へと回す。
“カチャ”
鍵が開いた。
俺はドアをゆっくりと開ける。
『誰かいるのか?』
一応声を掛けてみた。
アンサーは無かった。
どうやら俺の用心深さは当分消えそうにない。
だが、ケモノはいつどこに潜んでいるかは誰にも分からない。
このくらいがちょうどいい。
俺は室内を軽く見回した。
入って右手にドア。おそらくシャワールームとトイレだろう。
他にドアは見当たらない。
テレビとその下に引き出しが三つ、それに冷蔵庫。
テレビの横にはクロゼット。その反対側には二人掛けのソファーとテーブル。
全ての作りが至って簡素だが、ベッドだけは違った。
異質を放つベッドだけは天蓋が取り付けられマハラジャの世界観を思い起こさせる。
ベッドの枕元にはランプ。横には猫足型のサイドテーブルがあった。
俺はとりあえずスタジャンとジップアップを脱いでクロゼットにしまった。
そしてベッドに腰を下ろす。
―そう言えば、男が渡してきた紙…―
俺はポケットから先程の紙を取り出した。
細かい文字で《プレイアンケート》と書かれている。
どうやらプレイの希望を書くアンケートのようだ。
一番下には《ご記入後、女の子にお渡し下さい》と書かれてある。
俺はサイドテーブルに置かれたペンを取りアンケートに記入を始めた。

“プレイタイプは?”
ヘルスプレイ、性感プレイ。
俺は性感プレイに丸をつけた。

“どのように攻められたいですか?”
優しく、普通に、激しく。
俺は普通と激しいの間に丸をつけて、下に一文添えた。
(それなりに激しく)と。

“アナルは平気ですか?”
平気、駄目、試したい。
俺は迷わず平気に丸をつけた。
俺は一旦ペンをサイドテーブルに置くとその場で目を瞑った。
過去の記憶が生々しく蘇る。
俺はそのままトリップを楽しむことにした。

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十二話

薄暗い階段を登っていくと、都会の喧騒が俺の耳に飛び込んできた。
俺は地図で示されていたホテルの場所へと急ぎ足で向かった。
煌くネオン。
どれも魅力的な誘い文句が書かれている。
ケモノ達が口をあけて旅人を待っている。
酔っ払いの大学生やサラリーマン。
皆、ケモノの餌になるとは露とも分からず美酒に酔いしれているのか。
既に千鳥足の者も居た。
夜という世界に関しては俺も同じ餌だったのかも知れない。
だが、今夜で変わる。
俺は被食者から捕食者へと。
示されていた場所に近づくにつれて、いつの間にか喧騒はスピーカを絞ったように音は遠のいていた。
ネオンもまばらになり暗がりの通りへ。
示された場所へ曲がる。
一際怪しく光るネオン。ホテルマハラジャが先に見えていた。
アラビア風の宮殿を模した外観。
白と恐らくゴールドを基調にしている。
隣にはホテル秘宝館があった。こちらは薄いピンク色をしており、いかにもと言った卑猥さを放っている。
俺はマハラジャに入る事にした。
ホテル前まで着くと、自動ドアをくぐりホテル内へ。
なんの事はない、外観と違い内装は普通のホテルとさほど変わりは無かった。
タッチパネル式のホテルでは無く、受付が居るタイプのホテルのようだ。
受付カウンターへと進む。
受付は目隠しがあり口元しか見えない作りになっているが俺には分かる。
年の頃なら五十手前だろうか?
経験がそう告げていた。
―このくらいの女ならまだストライクゾーンだ―
俺は受付の女に部屋利用の旨を伝えた。
女は無言でぶっきら棒に部屋番号のプラスティックの札がついた鍵を渡してきた。
207号室。
プラスティックの札にはそう記されていた。
俺は左を向き、エレベーターと書かれた案内板を見つけてそちらの方に歩いていった。
エレベーターホールに辿り着く。
エレベーターの上向きの矢印を押す。
すぐさまドアが開く。
俺は颯爽と乗り込むと二階のボタンを押した。
モータ音と共にエレベーターが動き出すのを感じた。
いよいよ決戦の舞台へ。

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十一話

俺はスタジャンの内ポケットに手を滑らせた。
しっかりと用心棒を握る。
汗ですべらぬようしっかりと握り込む。
そして素早く取り出し、受付の男に向けて言い放った。
『バイブは持ち込みだと無料でゲスか?』
受付はおののいたが…
余談だがおののいたは、おのののかに似ている。
受付は冷静に俺に告げた。
『お客様、バイブのオプションは当店の物も持込も有料で二千円でございます。』
俺は落胆の色を悟られまいと、平静を装いながら言った。
あくまで、ナチュラルに。
『まあ、初めての店でバイブは止めておくでゲス。そもそも女の子の技量を見るにはこちらが受け手に回らなくてはいけないでゲスもんね。性感マッサージはお客がされるほうで、しっかりと楽しむにはオプションは不要でゲス。うん。そうだ。オプションは今回は無しにしようでゲス』
俺は受付の男を見た。
―やりきったか?―
表情が読めない。
なかなかのポーカーフェイスだ。
さすが、第一の関門を任されているだけはある。
受付は眉一つ動かさなかったかと思うと、急に笑顔になり言った。
『では、女の子お任せで結構ですね。オプションも無しと言う事でご料金は三万二千円を頂戴致します。よろしいですか?』
俺はつくづく受付の男に関心をした。
―俺がプロフェッショナルなら、こいつもプロフェショナルだ―
俺はようやく商品名、《スーパー用心棒君2000ハード‐ウッドグリップバージョン‐》という名のバイブを懐にしまった。
そしてようやく財布から相手の提示した取引金額を出し、カウンターの上に置いて言った。
『出来ればでいいでゲスが、金額だけ書かれた領収書を欲しいでゲス。』
領収書。
淡い期待だが、依頼主が対応をしてくれるかもしれない。
この紙切れ一枚で天国にも地獄にもこの世は変わる。
受付の男はやはり笑顔で俺に答えた。
『大変申し訳ありません。ただ今領収書を切らせておりまして、必要ならば女の子が伺う際にお届け致しますが?』
地獄の釜は開きかけていたが、直前で思い留まってくれた様だ。
俺はゆっくりとうなずいて言った。
『では、女の子から領収証を貰うでゲス。この後はホテルで待っていればいいでゲスね?』
受付の男はその言葉を聞くと、カウンターの下から何やら地図を取り出してきた。
ちょうど地図の真ん中あたりの一帯が色が変わっている。
おっと、言い忘れたがもちろん地図はラミネートされてある。
受付の男は色の違うその場所を手で示して言った。
『こちらの辺りですが、場所はお分かりになりますか?』
この男は俺をおのぼりさんか何かと勘違いをしているのだろうか?
―ふっ。池袋のマップは大体頭に入っている。ただし、裏通りに限るがな―
もちろん、示された場所もわかっていた俺は頷いた。
受付の男はさらに続けた。
『では、こちらにあるホテルマハラジャかホテル秘宝館にお入り下さい。込みのプランでご利用頂けるホテルになります。並んで建っていますので、どちらに入って頂いても結構です。入室されましたらお電話でホテル名と部屋番号をお伝え下さい。』
こんな場所は一刻も早くおさらばだ。
俺は話を聞き終わると、受付を背にして出て行こうとした。
ドアノブに手をかけた時だった。
『お客様っ』
俺はゆっくりと振り返った。
『女の子が伺うまでにこちらにご記入をお願いします。』
受付の男は一枚の紙切れを渡してきた。
俺はその紙を受け取ると、ポケットに突っ込んだ。
名刺二枚くらいのサイズだろうか?
いや三枚くらいか?
違うな、確かB3サイズとかだったか?
いやそれよりは小さい気がする。
ならばA5か?
違うな?
やはり名刺二枚分か?
―くっそ、とにかく紙だ。面倒くさい大きさの紙だ!―
俺はようやくドアから外に出る事にした。

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第十話

受付はあざ笑うかのように言った。
『はい。ご指名料、入会金全て合わせて三万四千円になります』
とんだバッドラックと踊っちまった。
WEBページには書いていなかった。
と、思う。
思い起こしてみる。
―女性の画像に気を取られ、注意事項等をしっかりと読んでいなかったかも知れない―
誤算。
良くある事なのかも知れない。
経験がそう告げている。
ここで受付と揉めるつもりはない。
有利に駒を進めなくては。
修羅場はいくつも踏んできたつもりだ。
計画を変更するしかない。
俺は受付に言った。
『そうだ!やっぱり初めての店だし指名は無しで、お兄さんのお勧めでお任せするでゲス』
危険な橋を渡る事になるかも知れない。
経験がそう告げていた。
依頼を受けた時から覚悟は出来ていた
そこまでしないと社長に借りは返せない。
それほどに大きな借りだ。
そう、初めての風俗を奢ってもらうと言う事とは。
思えば10年程前だった。
おっと、思い出に浸れるほど余裕ある状況じゃない。
俺は今の状況を整理した。
―池袋はまだまだ俺に厳しい―
ただ、予想外の事はこれだけとは限らない。
俺は財布を出すよりも先に懐の用心棒を確めた。
―出来れば使いたくは…―
だが計画がここまで大きくずれた今、躊躇などしていられない。
いよいよ用心棒に活躍してもらう時が来たようだ。
やはり、経験が告げている。
そして俺の頭の中のサイレンはもうずっと鳴り続けている。

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第九話

池袋西口の繁華街。
懐かしく、やはり苦い思い出の詰まった街だ。
この街に色々教わった事は今も忘れちゃいない。
今日はこの街に借りを返すつもりだ。
俺はネオンを一瞥する。
東京の獣は、俺の街と違う。
いつだって大きな口をあけてカモを待っている。
いくつものネオン。
無数の獣が巣食っている。
眠らない獣の餌食に今日も誰かがなっているのだろう。
だが、俺は違う。
今夜は俺が獣を喰らう番だ。
ーキッチリと借りは、倍返しだ!!ー
俺はお最近お気に入りの台詞を心の中で呟いた。
西一番街。
一つ隣の通りを歩いた。
さしずめ迷路のように入り組んだ路地。
進んで行くと目的の場所はあった。
もちろん表に看板の類は出ていない。
周りの景色から受付の言葉と符合する。
どうやらこの場所のようだ。
―ここだ。間違いないっ―
もう一つの最近お気に入りの台詞を心の中で呟いた。
受付の男が確か電話で言っていた。
地下に降りた先のドアから店に入れと。
薄暗い階段を降りると聞いた通り、ドアがあった。
秘密を守るようにスチール製のドアは硬く閉じられている。
俺はゆっくりとドアノブを回した。
鍵は掛かっていない。
招かれざる客では無いようだ。
ドアを開ける。
『いらっしゃいませー!』
狭い店内に響き渡る声。
声の感じから先程の電話の男に間違いない。
経験がそう告げている。
坊主頭にずんぐりとした体格。
白いシャツに薄いブルーのネクタイ。
カウンター越しなのでズボンの色は分からない。
恐らく黒か紺だろう。
経験がそう告げていた。
三、四畳のスペースの半分近くを占めるカウンター。
簡素な丸椅子が三脚置かれている。
俺は男へと歩を進めた。
ここまできたら完全に腹は決まっている。
俺は受付の男に告げる。
『さっき電話した…』
言いかけると、オーバーリアクションで受付の男は数回頷いた。
『先ほどお電話頂いた丘嶋様ですね?お待ちしておりました。』
まずは相手が一本。
先手を取られたが次はそうはいかない。
今度はこちらのターンだ。
もちろん倍返しだ。
俺は言う。
『すぐ遊べるんでゲスね?良い娘はいるんでゲスか?』
矢継ぎ早に続けた。
『それなりに経験のある女の子が良いでゲスね。そういう娘は居るんでゲスか?』
受付に少し話す暇を与えた。
『大丈夫ですよ。今ならあきらちゃん…』
―違う、そいつじゃないっ!―
『それと、しょうちゃん…』
―そいつでもないっ!―
『後は…』
―さぁ何もかもゲロっちまえ―
俺は心の中で吼えた。
『…りょうちゃんですね。』
―ビンゴ!そいつだ―
『三名がただ今お待ち時間無しでご案内出来ます。どの女の子が宜しいですか?』
受付が俺の顔色を伺う。
―計画通り―
―ここは計画通りに―
俺は落ち着けるように自分に言い聞かせた。
『100分コースをりょうちゃん指名でゲス』
俺は受付に出来る限り悟られないように、今一度財布の中身を確認した。
―100分コースの料金、駐車場代、帰りのガソリン代、そして指名料金―
俺の行動を遮る様に受付が言った。
『では、100分コースとご指名料金、それと入会金を合わせて…』
思わず心の声がポツリと漏れる。
『―えっ、入会金?―』
―入会金だと?入会金だと?入会金だと?―
―なん…だと?―

続く。

俺の風俗体験記 ~白川PartⅠ~第八話

駐車場へと急ぐと愛車に乗り込んだ。
シートに素早く腰を落とす。
イグニッションキーを回す。
ハンドルを持つ。
―ちょっと手荒になるが、愛してないわけじゃないんだぜ―
心の中で相棒に呟いてからアクセルを踏み込んだ。
高速を使えば一時間少々。
東京都池袋。
北口。
目指す【痴女りたい】はそこにある。
岩槻インターチェンジから、東北道に乗る。
そして首都高へ。
まだ車のご機嫌は良いようだ。
しかしある事に気づく。
数日前のランチを豪勢にしておくべきだった。
牛丼レベルのガソリンじゃ相棒もすぐ腹が減る。
ケチってツケが回ってきた。
ガソリンが残り少ない。
財布には必要額と二千円程度の金しか入ってない。
下ろしている暇は無い。
それに帰りに下ろす事も出来ないだろう。
そもそも銀行に貯金などない。
よってキャッシュカードも持っていない。
だが、二千円分のガソリンがあれば自宅までは戻れるだろう。
依頼が先決だ。
信用を失ってしまっては二度と依頼は来ないだろう。
おまんまの食い上げになっちまう。
俺は深く考えず車を飛ばした。
もちろん法定速度でだ。
標識が目に飛び込む。池袋と記されてある。
俺は左にウインカーを出した。
池袋の街に吸い込まれるように、弧を描きながら速度を落とした。
高速を降りた後は程近くの駐車場へと車を停めた。
目的地よりは少し離れていたが、歩ける距離だ。
胸の高鳴りを抑えるのにはちょうど良かった。
今さらだが、もう一度持ち物を確認する。
財布、携帯。手帳。
そして何より、懐の用心棒。使わないに越した事はない。
だが必要であれば躊躇しない。
不思議な程に心は落ち着いていた。
準備は全てオーケイだ。
俺は【痴女りたい】へと向かった。
しかしいきなり行くのは紳士的じゃない。
一度電話を入れておく事にした。
番号を押すと呼び出し音が耳元から流れた。
『お電話ありがとうございます。悶々性感ヘルス、【痴女りたい】です。』
やけに元気の良い受付の声。
暗い野郎を想像していたが、勝手な思い違いだったようだ。
動揺。
だが、ここまで来てひるんでなどいられない。
怯えや迷いが生むのはいつも最悪の結果だけだ。
経験がそう告げていた。
そう思いながらも俺は無意識で声色を変えていた。
『あのお…初めて利用するんでゲスが、今空いてるんでゲスか?』
すぐさま答えは返ってきた。
『はい大丈夫ですよ。今ならお待たせせずにご案内可能です。』
安堵。
予定は狂っていたがどうやらここから取り戻せそうだ。
続けて受付の男が言ってきた。
『お名前を伺ってもよろしいですか?ご来店頂いた際にスムーズにご案内可能ですよ』
俺はとっさに答えた。
『私の名前は丘嶋でゲス。』
その後俺は、一通りの簡単なシステムなどをそのまま電話で聞いた。
ご丁寧に受付の男は店の詳細な場所を教えてくれた。
俺は電話を切った。
―思った通り、まだ丘嶋には利用価値がある―

続く。