彼女は俺を弄んだ。
いや、俺と呼ぶべきか?
理性とは裏腹に蠢く俺自身のケモノ。
生用心棒。
略してNY。
NYを尻で、時にはしゃがみこんで胸で。
そして手で。
手は休まる事無く必ずどこかに触れる。
ミスタービーンズを。
背中を太ももを腕を。
ミスタービーンズを。
多くの場合はミスタービーンズを。
そして多くの場合は尻で、尻でNYを弄ぶ。
だが、永遠を感じる事は出来ない。
りょうは飽きたように、突然動きを止める。
吐息の漏れる声で俺に言った。
『こっち…』
りょうは俺の手を掴むとバスルームへと向かった。
バスルームには入らず、脱衣所辺りで立ち止まるりょう。
そして俺の後ろへと回り込む。
弄ぶ。
そしてまた弄ぶ。
知らなかった。
知らなかったんだ。
洗面所にあんな大きな鏡があるなんて。
いや、知っていたよ。
確かに知っていた。
だが、忘れてた。
忘れていたよ。
経験が教えてくれない時もある。
鏡は俺に屈辱を与える為だけの彼女の味方だ。
『どう、見えてるよ。恥ずかしいね?』
大きな鏡に映る小さな俺のNY。
まざまざと見せ付けられる。
惨い。
むごすぎるその光景に俺は思わず目を背ける。
何故かは分からない、願いが通じたのか?
すかさずりょうは俺との位置を変えた。
優しさ?彼女にもまだ残っていた人間の心。
今更そんな事はどうでも良かった。
いつの間にか置かれていた洗面台の薬品。
見覚えがある。
これは…ローション。
気づけば蛇口からお湯まで出ていたようだ。
湯気が立ち上っている。
恐らくはりょうの仕業だろう。
俺の目を盗んでこの程度の動作、彼女には目を瞑っても出来る造作もない事。
だが実際、目を瞑っていたのはほとんど私だった。
りょうは俺を洗面台に押し付ける。
この時の俺に抵抗する力は殆ど残っていなかった。
陶器で出来た無機質な洗面台の白い冷たさが俺を冷静にさせる。
俺はりょうと洗面台の間に囚われる。
囚人でもこの刑罰は御免こうむるだろう。
“プシュッ”
聞き覚えのある音が耳に入る。
―マヨネーズだ!そうだマヨネーズを出す時に空気が入っていてそれが出た時の音だ!―
経験が告げる。
どうやらりょうは、ローションと言う名の毒薬をとうとう俺に使うらしい。
俺は心の中で決意した。
すでに生用心棒はぬるぬるだ。
今さらどうと言う事はない。
受けて立つ。
続く。